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番外編 おかえり
「だから遥琉さんは生活費を稼ぐために高校生のときに自分で会社を興して、幽霊が出るとかでただ同然で売り出されていた古いアパートを買って自分たちでリノベーションして若い衆を住まわせて面倒をみていたんですよね?」
「えぇ、そうです。私と千里も遥琉に拾われて今こうして生きているのも、弁護士になれたのも遥琉のお陰といっても過言ではありません」
「俺も遥琉に拾ってもらったから今がある」
光希さんがひょっこり顔を出した。
「もう昔のことだ。忘れろ、許せと言われましてもね、子どものときに親から受けた仕打ちは忘れたくても忘れられないものですよ。許そうと思ってもそう簡単には許せないものです。遥琉も心さんも心に受けた傷はそう簡単には癒せるものではありません」
橘さんがサラダを更に盛り付けながら淡々と言葉を紡いだ。
「意外と子どもたちがキーマンになるかも知れませんよ。上総さんは自他共に認める孫バカですからね。一太くんとハルちゃんがもう少し大きくなれば遥琉と上総さんのあいだに出来た見えない溝を埋めてくれるかも知れません。ですから上総さんには健康に留意して長生きしてもらわないと困ります。せめてあと二十年。陽葵ちゃんが成人するまで上総さんにも茨木さんにも頑張ってもらわないと」
「そうだな、がんばっぺ」
お祖父ちゃんが湯飲みを片手に台所に入って来たから驚いた。
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