3538 / 3631
番外編 おかえり
「車をかっ飛ばしたら一時間も掛からないだろう」
売り物の野菜が入った段ボールを両手で抱えたヤスさんが姿を現した。相変わらずエプロン姿がよく似合う。
「岳温泉じゃなくて飯坂温泉からだぞ。福島トンネルの先だぞ」
「法事でK市に行く人がたまたま偶然近所にいたから頼んで乗せてきてもらったってさっき話していたぞ。見る人全員青空に見えるんだろうよ。顔を見てビビりまくっていた。あ、でも自分から若いのに声をかける度胸はあるんだからたいしたもんだ」
「佐治の姿が見えないと思ったら、そうか捕まっているのか?」
「あぁ、二人に青空だとすっかり勘違いされて大変だったんだ。今は誤解が解けて二人の話し相手をしている。じいちゃんばあちゃんのアイドルだから、佐治は」
「そういうお前もな」
蜂谷さんが笑った。
「とにもかくにもねえさん、二人に会ってください。オヤジと青空が帰ってくるまで相手をお願いします」
「僕だけでは心もとないので光希さん、一緒に行ってもらえませんか?」
「お安いご用だよ。桃を千里と心に送りたかったから。ちょうど良かった」
光希さんがいてくれれば鬼に金棒だ。写真でしか見たことないから。寺嶋さん夫婦ってどんな人なんだろう。ドキドキしながら二人がいる玄関に向かった。
ともだちにシェアしよう!