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番外編 おかえり

寺嶋さん夫婦が青空さんに是非見てほしいとアルバムを置いていってくれた。 「当時娘が住んでいたアパートは放火されて全焼。何一つ残っていない。犯人も未だ捕まっていない。福島に帰省していた時に撮影していた写真がソレだ」 ガキの俺がいるぞと青空さんは大興奮。 「おぃ、ハチ」 ぐいっと腕を掴んで引き寄せた。 「今度はなんだ?」 「かき氷を食ってるぞ。それにここ」 青空さんが指を差したのは鯖児湯の前で寺嶋さん夫婦と三人で撮影した写真だった。 「魚のいる温泉だ。漢字が難しくて読めん」 「子どものころの記憶なんてとうの昔に忘れていると思ったぞ」 「この顔を見たら自分でも不思議なんだ。思い出したかも知れん」 「かもか」 ずっこける蜂谷さん。とんちんかんな二人のやり取りは見てて面白い。 「でもなハチ……」 青空さんが急に黙り込んだ。 「こんなだぞ。昔の俺と今の俺、見てみ全然違うから」 「青空、いいことを教えてやる」 いてもたってもいられず青空さんのところに行こうとしたら彼に止められた。 「寺嶋さん夫婦の孫の名前、そらっていうんだぞ」 「そらか?俺と同じだな。どんな漢字を書くんだ?」 彼が【寺嶋空】とメモ紙に書いて青空さんに渡した。 「玲士、例のものを青空に渡してくれ」 側に控えていた玲士さんがすっと立ち上がるとA4サイズの茶封筒を差し出した。

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