3572 / 3630
番外編 おかえり
「ヤスはなんて?」
「このツラに見覚えがないかと聞かれた」
柚原さんの携帯が鳴った。
「三人を撮影している浴衣姿のその男だ」
「年は四十歳手前といったところか。がっしりとした体格をしている。首と手首に牡丹かなにか入れ墨をしているな。コイツ同業者か」
「あぁ、恐らくな」
「隣にいるのは連れの女か?ずいぶんと若いな。それとも青空の母親か?」
「寺嶋さんに娘はと聞いたら、青空の母親は具合が悪くて前日から臥せっていたそうだ」
細身の体にぴたりと張り付く丈の短い赤いワンピースを見た鞠家さんが、
「十五年前にボディコンって流行ったか?」
柚原さんに聞いた。
「さぁな興味がないから知らん。でもかなり浮いていたのは確かだ。だから弓削も思わずシャッターを切ったのかもな。この女、面白いところに黒子がある」
柚原さんが目を凝らして見ていたのは鼻の先と口元にある黒子だった。
「仮に二十五歳ならちょうど四十歳か。化粧と黒子ひとつで顔の印象がまるっきり変わる。笑っているが目付きが鋭い。ただ者じゃねぇぞこの女。やっぱりどこかで見たことがあるんだよな」
「柚原もか?実は俺もだ。ヤクザの世界は広いようで狭い。ここは重鎮たちに聞いたほうが手っ取り早いかも知れない」
ともだちにシェアしよう!