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番外編 おかえり

「夫婦喧嘩は犬も食わぬとよく言うが、家出し過ぎだろ。よりによってこんな時に……」 信号機のない横断歩道の前で困ったように立ち尽くす若い男性に気付いた七海さんが声を掛け、一緒に横断歩道を渡った。考え事をしていていつも下りるバス停ではないバス停で間違って下車したために迷子になったという若い男性。七海さんは近くの交番へと連れていた。はたから見たら恋人同士にしか見えなかった。余計な一言を若い衆がぽろりと漏らしたから鷲崎さんの焼きもちに火が付いてしまった。それがことの顛末だった。 「来たものはしょうがない。柚原、蜂谷、悪いが七海たちを迎えに行ってくれ。俺は吉村を送っていくついでに子どもたちを学校に置いてくる」 「分かりました」 「卯月さん、俺も行きたいです」 コウジさんが右手をあげながら駆け寄ってきた。 「蜂谷さんと柚原さんのお供をしたいです」 「二人がいいなら別に構わない。森崎と仲良くしろよ。喧嘩は駄目だぞ」 「分かりました」 「本当にわかっているのか?いや、絶対分かってないだろう、その顔は」 やれやれとため息をつく彼。一難去ってまた一難。彼の気苦労は計り知れない。

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