3588 / 3630

番外編 おかえり

七海さんは身一つで家出をしてきたみたいだった。 「俺なんかいつも忘れられています。でもそれが弾よけなんで別にいいんですけどね。光希さん、無礼をお許しください」 恭しく頭を下げる森崎さん。 「余計なお世話かも知れないけど、鷲崎さんに一言言っておいたほうがよくない?」 「オヤジの焼きもちは毎度のことです。が、しかし今回ばかりは腹に据えかねます。反論の余地さえ与えず一方的に責められて、ねえさんが可哀想だ」 熱く語る森崎さんに、くすりと笑う光希さん。 「七海が好きなんだね、森崎は」 「久弥も好きですけどね。未知さんも好きですよ」 「誰か忘れてない?」 「オヤジはいいんです。別に守らなくてもいいんで面白味がありません。それはそうと光希さん、久し振りの福島はどうですか?ゆっくり過ごせましたか?」 「もう二度と故郷には帰れないと覚悟していたから、まさかこんな形で帰省出来るとは思わなかった。毎日奏音と過ごせてすごく楽しいし、実家の親にも会えたし、妹夫婦にも会えたしもう思い残すことはない」 光希さんの足からひょっこりと顔を出したのは真くんだった。緊張した面持ちでぺこりと頭を下げた。 「あれ晴くん?いや、違うな」 「真だよ。晴の双子の兄のほう。幼稚園が休みで遊びに来たの。妹の茉弓は仕事に行ってる」 「初めましてかな?以前会っていたらごめんな。真くん、パパの友だちの森崎だ。宜しくな」 森崎さんが笑顔で話し掛けると、緊張の糸がようやく解れたのか真くんがにこっと笑ってくれた。

ともだちにシェアしよう!