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番外編 おかえり

「土産を持たせて丁重にお見送りした。宇都宮駅に着いている頃だろう」 「それなら良かった」 ほっとして胸を撫で下ろす七海さん。 「余命宣告を受けて、自分にはもう時間がない。だからこそ動けるうちに青空に会いに来たそうだ」 紙袋を七海さんに差し出す彼。 「これは?」 「名刺入れと昔使っていた手帳だそうだ。目が見えない自分にはもう必要がないから、処分しようとも考えたそうだが、俺らに託すと。必要がないなら捨ててくれと言われた。ヤクザに渡したら最後だ。ロクなことにならないと忠告はしたがな」 「卯月さんはこれをどうする気?」 「証拠がないからサツは動かない。だったら動かぬ証拠を見付ければいいだけのことだろ?青空の母親の手がかりを探す」 「もし証拠が見付かったら?直司さんを脅すの?」 「そんな姑息な真似はしない。正々堂々と世論に訴える。こんなヤツを政界に復帰させていいのかってな」 ニヤリと笑う彼。 「俺ははっきり言ってヤツが大嫌いだ。ナオにしたことは一生かかっても許そうとは思わない」 「昔世話になった人の墓参りをするため、善栄さんはそう言ってましたが、君子豹変、平気で味方を裏切り、邪魔者は排除、恩を仇で返すような人ですよ。そんな人が義理掛けする訳ありませんよ」 森崎さんが一刀両断した。 「もしかしたら青空の母親はすでに殺されていて、どこかの共同墓地に埋葬されている、ということか」

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