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番外編 おかえり

「未知がすっぽりと腕のなかに入るこの感じがいいんだ。う~~ん、たまらん」 「いい年をした大人が何をしているんですかね。子どもでもあるまいし」 「未知の前では子どもだ。ついでに言うと死ぬまでずっと俺は未知に甘えるつもだ」 「は?」 悪びれる様子もなく堂々と答えた彼にさすがの橘さんも開いた口が塞がらないみたいだった。 「補給完了。会合に戻る。邪魔したな」 彼の腕がすっと離れていって、髪をぽんぽんと優しく撫でると、足取りも軽く広間に戻っていった。 「一体何がしたかったんでしょうね」 「そうですね」 橘さんと目が合うなり笑いが止まらなくなってしまった。 雨戸を閉めていたら大粒の雨がざぁ―ざぁ―と降りだした。ゴロゴロと雷の音も遠くから聞こえてきた。 「マー、速報。携帯見てって」 紗智さんが息を切らして廊下を駆けてきた。 「あとは任せて」 「じゃあお願いね」 紗智さんに任せてポケットから携帯を取り出した。 「福島、事件、速報で検索してみてって。高行さんが」 言われた通り検索をかけてみると、飯坂温泉で暴力団の関係者と見られる男が発砲か?という見出しで速報が流れていた。 「青空さん?佐治さん?いや、そんなまさか……」 目の前が一新真っ暗になった。 「そだおっかねぇモノ、二人は持っていない」 ひとつだけ建て付けが悪い雨戸があって。二人がかりでもびくとも動かない雨戸に苦戦していたら、柚原さんが気付いてすぐに来てくれた。 「吉柳組の若いのは怖いもの知らずだが、所詮は虎の威を借る狐。よせばいいのに坂井組に喧嘩を吹っ掛けて、一触即発の状態にある」 あれほど動かなくて苦労したのに。いとも簡単に、しかも片手で雨戸を閉めた柚原さん。もしかしたら怪力の持ち主なのかも。 「神社の前の通りで鉢合わせになって、ちょっとしたいざこざが起きたのかも知れない。まさか甲崎がいるとはこれっぽっちも思わなくて今ごろ青くなっているはずだ」

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