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番外編 おかえり

「立てこもり事件か。なかなか面白いことになってるな。新聞社の記者にとっては大スクープだ。まさかマスコミがいるとは思わなかった連中にとってはとんだ誤算だったな」 彼が佐治さんと携帯で話しながら立てこもり事件が発生したと速報を報じるテレビの画面をじっと見つめた。 「遥琉さん強力な助っ人って……」 「さっき名前が出た二人と柚原と蜂谷が湯野に向かっている」 「どうりで探してもいない訳だ」 「俺の代わりに鞠家を行かせようとしたんだが招かざる客がアポなしでナオに会わせろと菱沼金融を訪ねてきた。翔が約束が違うと激おこぷんぷん丸でソイツに会っている」 「もしかして礼さんが?」 「あぁ、そうだ」 「ナオさんは?」 二人を会わせてはいけない。礼さんはナオさんのトラウマの原因だから。ナオさんに礼さんが来ていることを伝えないと。ズボンの尻ポケットから携帯を取り出そうとしたら、 「僕はここにいるよ。幼稚園にいたときに鞠家さんから電話が来て、菱沼金融に来るなって言われた」 ナオさんがちょっこり顔を出した。 「良かった。無事で……」 ホッとして胸を撫で下ろした。 「卯月さん、信孝さんに何度電話しても繋がらないんです。信孝さんにもし何かあったらどうしよう」 「信孝は俺よりも大人だ。もし礼に難癖をつけられ喧嘩を吹っかけられたとしても、信孝は絶対に相手にしない。心配すな」 不安でいっぱいのナオさんに、彼はわざと明るく励ました。

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