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番外編 おかえり

「佐治の髪って柔らかいよな。触り心地も悪くない。少し茶色に染めたのか?」 「金がないんで自分でやろうと思ったら失敗したんです。そんなに手先が器用じゃないんで。それに子どもたちがいると駄目ですね、気が散ってしまって」 「髪を染めているなんてたいくんたちは分からないからな。遊んでもらいたくて突進してくる。たいくんたちが昼寝をしたら染めてやる」 「マジで?ハチありがとう。頑張る俺。約束を破ったら怒りますからね」 「二言はない。俺がいままで嘘をついたことがあるか?」 「ないです」 俄然やる気になった佐治さん。片っ端から調べはじめた。 「もしかしてここ松川浦じゃないのか?潮干狩りに家族で来たか、友だちの親に連れてきてもらったか、そのどっちかじゃないのかな」 佐治さんが松川浦にある大洲海岸の写真を眺めながらポツリと呟いた。 「福島には海があるからいいですよね。砂浜に座って一日中ぼおっ―として海を眺めるなんて最高じゃないですか」 「そこだ!そこに青空の母親がいる!」 「は?」 よっぽど驚いたのか佐治さんの声が裏返った。 「突拍子もない話しかも知れないが、頼む。黙って聞いてくれ。口封じに殺されたと思われていた青空の母親は川に流されてかろうじて生き延びた。息子が連れ去られるのを目の当たりにし、生きているのが福光らにバレたらまた命が狙われる。次こそ間違いなく殺される。だから素性を隠した。そしてその直後にあの大震災が起きた。思い出の場所である松川浦で息子と会える日を待っているとしたら?」

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