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番外編 おかえり
「なるほどな。どうりで手を尽くして探しても遺体が見付からない訳だ。だてにサツをしていた訳じゃなかったな」
「マル暴の刑事には思えないってだろ?現役のときよく言われたよ。飯坂温泉から松川浦までは車で一時間半くらいの距離だ。親の顔を見に行こうと思えば行ける距離だ。オヤジに報告する。佐治、助かったよ。ありがとう」
「俺はなにもしていない」
「謙遜するな。あ、そうだ。今のうち海を見ておくように佐治を行かせてくれと頼んでおく」
「ハチ、どういう意味だ?」
「そのうち分かるさ」
意味深な笑みを浮かべる蜂谷さん。訳が分からずキョトンとする佐治さん。
ふたりのやり取りを聞いていた伊澤さんが、
「勘は鋭いが、色恋に関しては相変わらず鈍感な男だ」
クスリと笑った。
「俺?」
「譲治のことを言った訳じゃねぇよ。覃とはちゃんと連絡を取り合っているんだろ?」
伊澤さんに聞かれて表情が暗くなる譲治さん。
「そうか。手紙を書いたらどうだ?ねえさんのほうから地竜に連絡してもらえれば覃のところに届くはずだ。字が汚いとか、難しい漢字が書けないとか、そんなの関係ない。気持ちがこもっていればいいんだ。覃のあの難しい字だけはちゃんと書けるんだから、やればできる」
「分かった。頑張る。伊澤さんありがとう。元気が出た」
「そうか、良かった」
伊澤さんが安心して胸を撫で下ろした。
「そろそろ片付けて一旦休憩にしようか。水分をとらないと暑さに負ける」
太惺と心望がはぁ~~いと小さな手を挙げた。
「おやっさん!俺らがやります」
「おやっさん、休んでください」
ビニールプ―ルの水を抜き片付けをはじめると若い衆があわてて駆けてきた。
「未知さん、今いいですか?忙しいですか?」
台所で後片付けをしていたら譲治さんに声を掛けられた。
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