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番外編 おかえり

「私は口がかたいですよ」 「分かってる。だから橘にも聞いて欲しかった。ねえさん、青空の母親はもしかしたら生きているかも知れない」 「え?」 自分の耳を疑った。 「ねえさんに内緒にしておくわけにはいかないから話すが、明日青空の母親の高校の友だちに会ったその足で甲崎兄弟には松川浦に行ってもらうことにした。佐治も一緒だ」 「見付かればいいですね」 「内密に頼む。外に漏れたら大変なことになる。柚原にはオヤジから話した。このことは幹部しか知らない」 「分かりました。肝に銘じます」 「私も肝に銘じますよ。しかしまぁ、よく気づきましたね」 「蜂谷の刑事の勘だ」 「ヤクザにしておくには勿体ない。別の生き方もあったのに。そう言いたいのでしょう」 「惣一郎の背中を見て育ち、自分も刑事になりたくて夢を叶えたのにな。なんで世の中はこうも不公平なのかな。本音を言うと蜂谷にはまっとうな人生を歩んで欲しかったが、決めるのは蜂谷自身だ。俺らが口を出す権利はない」 伊澤さんが苦しい胸の内を吐露した。 吉村さんと斎藤さんが帰ったあと、青空さんがぼんやりと茜色に染まりはじめた空を眺めていた。

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