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番外編 ありがとうな、

「余命二ヶ月、そう宣告されたのはもう一年も前のこと。死ぬ前にどうしても叶えたい夢が二つあった。一つは神様が叶えてくれた。もう一つは福光さん、あなたが逮捕されることです。私が生き証人です。口封じに殺したければ十五年前と同様にヤクザに依頼して殺せばいい。私はここにいます。両親と生き別れた息子に会えたから思い残すことはありません」 病室のベットの上でいとさんは気丈に振舞っていた。息子が連れ去られたのは全部自分のせいだ、なんで自分だけ助かってしまったんだろう。いとさんは自分を責めつづけた。長年の無理がたたり過労で倒れたときに不治の病であることが分かった。 「死ぬときくらい本当の名前で死にたい。私はあなたに人としての尊厳を奪われ、息子を奪われ、山梨さんと出会いやっと幸せになれると思ったのに彼も奪われ、名前も奪われた。私があなたに何をしたんですか?なにもしていないのに、なんで……」 いとさんの目から涙が一筋こぼれ落ちた。 「下手な猿芝居をして」 福光さんにはいとさんの訴えは1ミリたりとも届いていなかった。 「おぃ、何を撮っているんだ!」 ようやく蜂谷さんが携帯で撮影していることに気付く福光さん。 「止めろ!」 蜂谷さんのところに行こうとしたら、 「見苦しいと思わないのか?」 彼に鋭い目付きで睨まれて、力なくソファーに腰を下ろした。

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