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番外編 ありがとうな、

その直後甲崎さんを先頭に捜査員たちが一斉に入ってきた。 「福光直司さん、寺嶋いとさんのことでお伺いしたいことがあります。署までご同行いただけますか?」 「そんな女知らないな。それに私には身に覚えのないことだ。私から何かを聞き出そうとするならちゃんと逮捕状を持って出直してこい。証拠があるんだったらな。おぃ、誰か弁護士を呼べ」 福光さんが事務所のスタッフを呼んでも誰ひとり返事をする者はいなかった。 「礼は何をしてんだ。いざという時に役に立たない男だ」 イライラしながらテーブルを指でトントンと叩く福光さん。 「この二十年あまり寺嶋さんはどんな思いで日々を過ごしていたでしょうね。五歳のときに青空は母親から無理矢理引き離され大陸に連れ去られ、チャイニーズマフィアに売り飛ばされ戦闘員にさせられた。たとえ子供でも生きるためには人をあやめなければ、凄惨なリンチを受ける。あなたは青空が息子だと薄々勘付いていた。だから圧力をかけて青空のことを報道しないようにした。存在そのものを消すかのように公にさせなかった。話題を同じく拉致された九鬼千夏親子にだけに向けさせた。違いますか?」 甲崎さんがスーツの上着の内ポケットから逮捕状を取り出すとそれを広げてテーブルの上に静かに置いた。 「福光直司さん、あなたを逮捕します」

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