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番外編ありがとうな、

「亲爱的《チンアイダ》」 消毒液の匂いが微かにする、ひだまりのように広くて温かな胸元に抱き締められていた。 「卯月の留守中は俺が妻子を守らなけばならないだろ?」 「ずいぶんと早かったですね」 「日付が変わる頃に子どもが緊急搬送されてきて、二時半にようやく落ち着いて、やっと仮眠が出来ると思ったらその三十分後に誰かさんに叩き起こされたんだよ。なぁ、橘」 ジロリと睨む地竜さん。 「遠いところからわざわざ来るのは大変なので、別に来なくてもいいと言いましたよ、私は」 「遥琉がいない、未知を思う存分独り占めできると言われたら、未知に会いたくなるだろ?我慢できなくなるだろ?今日は駄目でも次の機会があるって?次の機会がいつになるか分からないだろう?千載一遇のチャンスをみすみす逃すなど俺には出来ない」 「はい、はい、分かりました。言いたいことはそれだけですか?お帰りなさい地竜さん。遠路はるばるお疲れ様です」 にっこりと微笑む橘さん。 「おっかねぇ―」 覃さんがボソリと呟いた。 「橘は笑ってる時が一番怖い」 「覃さん、聞こえてますよ」 「あれ、おかしいな。独り言なのに」 髪をくしゃくしゃと搔く覃さん。 「風が変わる」 ふと空を見上げ、そう呟く地竜さん。

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