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番外編ねえさん、ただいま
「苦み走ったあんにゃがいると思ったらヤスさんでねぇか」
軽トラの運転手席から顔を出したのは過足さんだった。タオルを首にかけて人懐っこい笑顔を見ていた。それに対し、助手席にいるしおさんはかなり不機嫌そうだった。
「過足か。ミツオたちを助けてくれてありがとう。礼を言う」
ヤスさんが軽く頭を下げた。
「やめてくんちょ。菱沼組にはうんと恩がある。たまには返さねぇとなんねぇべした」
「家に帰らなかったのか?」
「他にもやんねぇとなんねぇ野菜があったんだ。鞠家さんに渡すのをわすっちゃんだ」
「そうか、わざわざ届けに来てくれてありがとう」
過足さんがヤスさんの隣にいる弓削さんをチラチラと見ていた。
「ヤスさん、そちらは?新入りかい?」
「ではない。紹介がまだだったな」
ヤスさんが弓削さんを紹介しようとしたら、助手席からしおさんが突然下りてきて、拳を振り上げて弓削さんに殴り掛かろうとした。
「おぃ、若造!粋がってんじゃねぇぞ!」
ドスのきいた低い声があたりに響き、弓削さんがその拳をがしっと掴み、そして手首をぐいっと捻った。
「いてぇーー!」
しおさんが悲鳴を上げた。
「誰かと間違えたんだべ。許してくんちょ」
過足さんも慌てて車から下りてきた。
「お前とコイツの話しはオヤジから聞いてる。弓削だ。宜しく」
「はじめまして、過足です。彼はしおです」
ただならぬ気配にビクビクしながらもぺこりと頭を下げる過足さん。
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