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番外編恋の吊り橋作戦
「ねえさん帰りました」
柚原さんも帰ってきた。橘さんは病院だ。彼と一緒にまだ予断が許さない状態の男の子に付き添っている。柚原さんもそのことは知っていた。
「玲士、大変だったみたいだな」
「寿命が縮むかと思いましたよ」
ハサミを首に突きつけられ大人しくしねぇとぶっ殺す。俺は拳銃も持ってんだぞと脅されていた玲士さん。ロンさんはハサミを握っていた誉さんの手を狙い一寸の狂いもなく命中させた。
くくくと笑い出す柚原さん。
「柚原さんにしてみれば笑い事で済む話しでも、俺にとってはここで死ぬのかと思いました。もう二度と亜優の顔を見れないのかと一瞬頭の中に三途の川の光景が浮かびましたよ」
「三途の川か。まだ渡るには早いと藍子さんたちに追い出されるぞ」
「あ、そうだ!」
なにかを思い出したのか大きな声をあげる玲士さん。
「耳元でデカイ声を出すな。鼓膜が破れると思ったぞ」
「すみません。線香をあげてきます。すっかり忘れてました」
ドタバタと玲士さんが慌てて仏間へ向かった。
「騒々しいヤツだ。でもアイツらしい」
朝晩藍子さんたちの遺影の前に座り、写真に話し掛けて線香をあげて手を合わせている玲士さん。若いのに律儀で礼儀正しいヤツだと度会さんと紫さんが褒めていた。
「宋から苦情がきてるぞ」
玲士さんと入れ違いに覃さんが居間に入ってきた。
「磐梯熱海インターからKインターまではそんなにかからない。二十分もかからないんじゃないか。同じ市内だし」
「寿命が縮んだと」
「そうか、それは悪いことをしたな」
クククと笑い出す柚原さん。
「振り返れば柚原がいるんだ。たまげる。おめのでな広いな、まさかデコピンされて痛くて悶絶する日が来るとはな。さすがはぱぱたんだ」
「褒めてもなにも出ないぞ」
「本当に現役復帰に興味はないのか?」
「ないな。橘と一緒になるときに約束したからな。ねえさんと子どもたちを守るために何度か引き金を引いたが、もうおっさんの出る幕ではない」
柚原さんがふふっと微かに笑った。
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