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番外編恋の吊り橋作戦
「今生の別れみたいな台詞を言わないで下さい。また会いに来てください。そのときには会ってくれるかもしれませんよ」
「そうよね」
額田さんが鼻をずずっと啜った。
「未知さんに宜しく伝えて」
「来たばかりなのにもう行くんですか?未知にまだ会ってもいないのに」
「やっと踏ん切りがついたのよ。心が揺らいだら帰れなくなるでしょう?」
額田さんは心配をかけまいとわざと明るく振舞っていた。新幹線の時間に間に合わないからと慌ただしく帰っていってしまった。
「額田さんも忙しい人だから。挨拶はまた今度にする」
「弟たちに会いたくて地竜みたくすぐに帰って来るよ。あ、そうだ。これを渡しそびれていた」
彼から分厚い茶封筒を渡された。
「渋川がな、ナナシの両親から世話になったと渡されたんだ。金はいらないと断ったら金じゃないからもらってくれと押し切られた。おむつ代とおやつ代の足しにしてくれと、返品不可だと言われた。遠慮なくもらっておけ」
「いや、そんな。こんなにたくさんもらったら悪いよ」
「ここは渋川の顔を立ててくれ」
「遥琉さんがそこまで言うなら遠慮なく使わせてもらう」
封筒の中身は商品券だった。
「ナナシさんが見付かって良かったのかなって、これで本当に良かったのかなって、ふと思うことがあって。だって最後の最後まで本当の名前を名乗らなかったんでしょう?ナナシのままでいいって言ったんでしょう。他人が口出しすることではないけど、よっぽどのことがあったからナナシさんはナナシさんのまま、別人として生きたいってそう決心して家族の前から姿を消したのに、その家族に引き渡して本当に良かったのかなって」
「未知の言い分にも一理ある。渋川も一瞬躊躇したが、父親が弁護士と知人の県議会議員を一緒に連れてきたから引き渡すしかなかったそうだ」
いつになく険しい表情を浮かべる彼。
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