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番外編恋の吊り橋作戦
混乱に乗じて女に襲いかかろうとして、まわりにいた乗客たちに取り押さえられた若い男がいます。鷲崎組の舎弟からその男の特徴を聞いた手塚さんは、
「……嘘だろう」
いきなり鈍器で頭を殴られたように立ちすくんで、雲ひとつない空を見上げた。
―大きく見開かれたその目は、死んだ魚のように虚ろでした。どこかで見たことがあるツラなんですよ。それは断言できます。でもそれが思い出せない。役立たずですいません―
「それだけで十分だ。ありがとうな」
―兄貴の役に立ててまじで嬉しいです―
「俺はもう鷲崎組の組員じゃないんだ。兄貴呼ばわりはもうしなくていいんだぞ」
―俺にとって兄貴は死ぬまで尊敬する俺の兄貴です。それは譲れません―
「分かったよ。好きにしろ」
―はい、好きにします―
携帯を耳にあてていた森崎さんがクスリと笑うと、またあとでな。そう言って電話を切った。
「手塚、どうすんだ?」
「俺は……」
そこで言葉を止めると唇を噛み締め、手を強く握り締めた。
「手塚、二兎を追う者は一兎をも得ずだ。ナナシに惚れているんだろ?それならその目でちゃんとナナシか確かめてこい」
黒いワンボックス車の後部座席には退院したばかりの男性が二人乗っていた。宇賀神組の構成員に見張られ逃げ出すことも出来ずガクガクと震えていた。
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