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番外編恋の吊り橋作戦
「あの親子連れがとあの兄ちゃんの家族だって聞いたが」
「相変わらす神出鬼没で地獄耳ですね」
上は胸ポケットにN運輸株式会社と刺繍されたグレーの作業着を着て、下はスラックスを履いて、ふらりと現れたのは宋さんだった。
「なんで座る?」
「何でって空いているからだ。理由は特にない。そう固いことを言うな俺とお前の仲だろ?」
「そういう仲になった覚えはありませんよ」
「本当は嬉しい癖に。昼飯を注文する」
「話しを逸らさないで下さい。あ、ちょっと待って。ピンポンを押さないで下さいよ。これで注文するんですよ」
タブレットを渡すミツオさん。
「いまはなんでもハイカラなんだな。ついていけんぞ」
「若いんですから年寄りみたいなことを言わないで下さいよ」
「面白い男だな」
「若林さんでしたっけ?彼氏に誤解されませんか?」
「彼氏か、いい響きだ。まだお友だちだ。それに何も悪いことはしていないぞ」
「どうせこれからするんでしょう」
「なんで分かったんだ?」
「分かりますよ、普通」
ミツオさんに言われ、クククと笑う宋さん。
「新幹線が三十分後に運行を再開させる。あの家族連れもそろそろ移動を始めるはずだ。カドタと接触するかもしれんぞ」
ー分かってはいるんだがひかりのみこの信者だとしたらややこしいことになりかねん。子どももいるしなー
通話中だったみたいで携帯から彼の声が聞こえてきた。
「実はこれから出張でな、新幹線に乗る予定だ。所長がなかなか来ないんだよ。ホームでそれとなく監視してやる。礼はいらんぞ」
ミツオさんがドリングバーからカフェラテを二つ運んできた。
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