3862 / 4006

番外編恋の吊り橋作戦

「走ると転ぶぞ」 彼が優輝くんに声を掛けようとしたとき、何かにつまづき前のめりに転ぶ優輝くん。 「よくつまずくよね、優輝は。ちゃんと前を見ないからだよ」 「ちゃんと見てるよ」 頬っぺを膨らませてムキになって答える優輝くん。 「見てないから転ぶんでしょう」 「二人ともけんかはダメだよ」 一太が二人の間に割って入った。 「優輝くん大丈夫?」 「うん、大丈夫……」 何気に手のひらを見る優輝くん。 「うわぁ~~血だ」 転んだときは痛いとさほど感じなかった優輝くん。でも血を見るなり痛い、痛いと泣き出した。 「一本遅らせたほうがいいか?」 「千里が待ってんだ。こっちは大丈夫だから」 「悪いな、兄貴。一太、めぐみ、優輝を頼むな」 「任せて。いってらっしゃい」 一太とめぐみちゃんが手を振った。 「未知も元気でな」 「お兄ちゃんも元気で」 新幹線に乗り込むお兄ちゃんを笑顔で見送った。 ドアが閉まると流線形の車両がゆっくりと走り出した。 「歩く人の邪魔になるから移動するぞ。ハチが絆創膏を貼ってくれるからもう泣くな」 青空さんが泣きじゃくる優輝くんを片手で軽々と抱き上げるとそのまま待合室へ連れていった。 昔から優輝はよく転んでいた。男なら泣くな。女々しいヤツめ。それでも縣一家の人間か。一央によく叱られていた。怒られているのにどこか嬉しそうにしている優輝を見たとき、一央に構ってほしい、ただ振り向いてほしかったんだとわかったときは切なかった。りょうお兄ちゃんの言葉がふと脳裏をよぎった。 「柚さんと一央さんとは暮らせないけど、今はみんな構ってくれるから、一人じゃないから、もう寂しくないよね」 「あぁ、最初の頃と比べると感情表現も豊かになった。俺は寂しいがな」 「え?なんで?」 思わず聞き返してしまった。

ともだちにシェアしよう!