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番外編恋の吊り橋作戦
「デパートでちょうどアイスクリームの催し物をしている。一緒に行くか、それともここで泣いているか、二つにひとつだ。優輝、お前が決めろ」
彼に言われぴたりと泣き止む優輝くん。
「あれ?」
あたりをキョロキョロと見回した。
「さっきまで一太とめぐみがいたのに……」
「こだ暑いところにいつまでもいれないだろう。トイレに行ってそのまま土産物を見ている」
「そんなの聞いてない。なんで置いてくかな」
優輝くんがすっと立ち上がった。待合室を出ようとしたとき、
「何か忘れていないか?」
彼に言われて、慌てて振り返った。
「蜂谷さんありがとう。ばんそうこと一緒にいてくれて」
やってもらって当たり前の人は感謝の気持ちが欠けている。ありがとうという感謝の気持ちを表すことは勇気がいるし、恥ずかしいかも知れないが口に出さないと分からない。黙っていたらなにも伝わらない。ここは縣一家とは違う。優輝くんは彼に言われたことをちゃんと守っていた。
一太たちに合流するために下りのエスカレーターに乗ると、
「今日はやけに多いな」
彼が険しい表情を浮かべボソリと呟いた。あともう少しで着くというときに、
「どけ!邪魔だ!」
「ちょっと危ないでしょう」
男がすごい勢いでエスカレーターを駆け下りてきた。
「蜂谷さん、優輝くん、危ないからすぐに手を離して。右に寄って」
「エッ?右?」
いまだにエスカレーターが苦手な優輝くん。乗り降りの際は特に怖いからと蜂谷さんと手を繋いで僕たちの前に乗っていた。
「未知、優輝の心配より自分の心配をしろ」
すれ違いざま男がどんと肩にぶつかってきて。足元がふらついた僕を彼がぐいと抱き寄せてくれたから事なきを得た。
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