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番外編恋の吊り橋作戦
「あぶねぇーべした。押すんじゃねぇ」
「うるせー。ちんたら乗っているお前らが悪いんだろう。邪魔なんだよ。ガキの躾くらいちゃんとしろ」
男はそう吐き捨てると携帯を耳にあてながら走り去った。
「そんなに急いでどこに行くんだか。優輝、大丈夫か?」
「うん。やっぱり青空さんはすごい」
興奮した様子で優輝くんが目をキラキラと輝かせていた。
「滑り込みセーフだったろ?」
ニヤリと笑う青空さん。駅員さんたちが慌てて走ってきた。
「警察や救急車を呼ぶほどのことではない。大事にする必要はない。これだけ急なエスカレーターだ。一歩間違えたら将棋倒しになって大惨事は免れなかった、それだけは心に留め置いてほしい」
エスカレーターを下りようとしたとき背中を押されてバランスを崩した優輝くん。青空さんが寸でのところで抱き止めて素早く移動してくれたから将棋倒しにならずにすんだ。彼の言うとおり一歩間違えていたら大惨事は免れなかった。まさかそこなことになっているとは知らず、大きなスーツケースを持った乗客が次から次に下りてくる。優輝くんが下敷きになってそのまま圧死していたかもしれない。ぞっと寒気がした。
「優輝くんが無事で良かった。お兄ちゃんたちに顔向けが出来なかった」
「それは俺の台詞だ。俺や弓削がそばにいながら未知に怪我をさせたら裕貴と蒼生と橘兄妹に一生恨まれることになるからな」
彼が胸を撫で下ろし優しく微笑んだ。
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