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番外編恋の吊り橋作戦
ミツオさんとのおしゃべりに夢中になっていて優輝くんは男の存在にまったく気付いてなかった。
普通は気付く距離なのにな。
「優輝くんは一つのことに集中するとまわりが見えなくなるんです」
「そういえば龍成がWISC検査を受けさせようと思う、そう話していたな」
「みんながみんな一緒じゃないから。優輝くんのいいところ、好きなこと、どんどん個性を生かしてあげたいと思うんです。小さな体で生きづらさを嫌なくらい経験してきたんです。これからは子供らしく生きて欲しい、そう思うんです」
「そうですね」
弓削さんとそんな会話をしていたら、
「ねぇ、ねぇ、なんでお店に入らないの?暑いよ」
優輝くんが不機嫌そうに顔をしかめた。
「頭のなかはアイスでいっぱいなのに、急に予定が変更になるんだ。そりゃあ混乱する。もうちょい待てるか?」
「やだ。待てない」
下唇をこれでもかと伸ばす優輝くん。椅子でなく、地べたに座り込んだ。
「参ったな。誰かいねぇか」
あたりをキョロキョロと見回すと、
「弓削でも困ることがあるんだな」
クスクスと笑いながら颯爽と姿を現したのは鞠家さんだった。
「用は済んだのか?」
「あぁ。あとは玲士に任せてきた。何事も経験だからな。優輝、どうした」
「あの、鞠家さん」
事情を買いつまんで説明すると、
「なるほどな。優輝、俺と一緒に行こう」
むすっとしたまま一言もしゃべらない優輝くん。
「俺と一緒はそんなに嫌か?」
「はるせんせいがいい」
ぼそぼそと呟く優輝くん。
「でもアイスが食べたいんだろ?」
うん、ちいさく頷く優輝くん。
「一太たちを待っていたら三十分はここにいることになる。飽きるだろ?それなら俺とミツオと一緒に行ったほうがいいと思わないか?」
右手を差し出すと、しばらく考えたのち、
「うん、分かった」
優輝くんがその手を取りそっと握り締めた。
弓削、オヤジに伝えておいてくれ
「分かった。カシラ助かったよ」
「その代わり俺の大事なマーを頼むな」
「任せろ」
優輝くんは鞠家さんとミツオさんに手を握ってもらいついさっきまで駄々をこねていたとは思えないくらいルンルン気分でデパートのなかに入っていった。
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