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番外編彼のもう一つの素顔
「強面の厳つい大男がピアノを弾いているんです。しかもきらきら星とアニメの主題歌を。そりゃあ誰だって思わず振り返って二度見します。ブランクがあるとは思えないくらい上手でした。さすがはオヤジ」
「思ったより鍵盤が重くなかったから弾きやすかった。でも指が思うように動かなくてな。誰だネットに動画をあげたのは。恥ずかしくて明日からお天道様の下を歩けないじゃないか」
「とかなんとか言って普通に歩いているじゃないですか。ねえさんも聞き惚れていましたし、ますます惚れ直すんじゃないですか?」
「いやぁ~照れるな」
髪をくしゃくしゃと搔く彼。
「悪かったな、ヤス。せっかくのデートだったのに。邪魔すんなって言っておきながら俺が邪魔してんだもんな」
「いえ、邪魔だなんて。そんなことは一度も思っていません。俺もオヤジの演奏が聞けて良かったです。優輝に感謝しないと」
「子どもは素直だからな。天使のような顔で突拍子もないことを言い出すからな。優輝は穣治と同じで一度言ったらそれしか頭になくて。まわりが見えなくなる。切り替えも難しい。面倒くさがらずにみんなであたたかく見守ってやってほしいんだ。ヤス、頼むな。これからも頼りにしている」
「はい。任せてください」
ヤスさんの目の奥がキラリと光った。
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