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番外編彼のもう一つの素顔

「橘さんは遥琉さんがピアノを弾く姿を見たことがあるんですよね?あ、すみません。変なことを聞いて……聞かなかったことにして下さい」 もう、なに言ってんだろう。 「遥琉はとある伝説を作りました」 「伝説ですか?」 「金貸しを生業にしていた時、同業者から夜逃げした客が置いていったピアノの処分に困り金に変えられないかと相談を持ちかけられましてね。遥琉はあの通り頼まれたら断れない性分ですから、ピアノを引き取り綺麗に掃除して音がちゃんと出るように調律してから児童養護施設に寄付をするという活動をしていたんです。儲けなんて一切ありません。逆にマイナスです。ピアノを弾いて施設の子どもたちと一緒に歌っている姿は普段の彼の姿とは真逆で、可愛いものです。体も大きくて顔も怖いのになぜか子どもには好かれるんですよね、不思議ですよね」 「そうですね」 「遥琉を慕い卒業証書を持ってわざわざ訪ねてくる子もいたくらいですからね。困ったことがあればいつでも連絡を寄越せとよく連絡先を渡していましたよ」 「そうですか」 ボソボソと返事をしたら橘さんにくすりと笑われた。 「もしかして焼きもちを妬きましたか?」 「妬いてません」 ちょっとだけ心がざわざわして、モヤモヤはしたけど。焼きもちは妬いていない。だって遥琉さんがモテモテなのは昔からだもの。

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