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番外編彼のもう一つの素顔
「未知さんは大人ですね。誰かさんに爪の垢を煎じて飲ませてあげたいです」
ふと背後に人がいる気配を感じて振り返ろうとしたら、
「ママ、うごいちゃだめ」
遥香の声が聞こえてきた。
すっと手が伸びてきて、顔を覆われた。手のひらは汗でしっとり濡れている。化粧品か柔軟剤か分からないけど花の香りがする。右手薬指には指輪を嵌めていた。
「ママ、だれだとおもう?ままたん、おしえちゃだめだよ」
「はい、分かりました」
「ママ、わかる?」
クスクスと遥香の笑い声が聞こえてきた。
「ママ、ぜんぜん分からないからヒントが欲しいな」
「ヒントをいったらすぐわかっちゃうでしょう」
「じゃあ、男の人か、女の人かは教えてもらえる?」
「おんなのひとじゃないよ。のっぽさんだよ」
「となると男の人だよね?みんな背の高い人ばかりだから難しいな」
「未知さん、間違えたら失礼にあたりますよ」
「橘さん、僕、プレッシャーに弱いんですから……」
「そうでしたね。ごめんなさいね」
橘さんがクスリと笑った。こうなったら消去法でいこう。190センチ前後あるのはウーさん、フーさん、宋さん、青空さんだ。でもなんか違うような。うんうんと悩んだけど一人に絞るのはかなり難しかった。
「……もしかして……」
「ママ、わかったの?すご~~い」
当てずっぽうだけどこうなったら一か八か。間違えたら失礼にあたるけどパっと頭に浮かんだ名前を口にした。
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