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番外編彼のもう一つの素顔

「やはりバレていましたか」 「卯月は最初から気づいていた。お前さんを抱き上げたのも確認するためだった。未知さんと子どもたちを無断で盗撮するとは断じて許されるもんじゃねぇ。お前だって監視対象としてチカを盗撮されたら嫌だろう」 「はい。嫌です」 頭を垂れる国井さん。 「分かればいいんだ。分かれば。声を荒げて悪かったな。ほら、直したぞ」 度会さんがネクタイから手を離した。 「国井、そのネクタイピンをこっちに寄越せ。家族を盗撮されて黙っているのも癪に障る」 彼が右手をすっと差し出した。 「これを渡すことは出来ない」 「写真を消したらすぐに返す」 「そんなこと……」 「出来る訳がないって、だろ?」 言葉に詰まる国井さん。 「それが出来るんだよ。覃がいなくても亜優と宋と吉村がいる」 「そうか、吉村もいたんだな」 自嘲する国井さん。 「こう見えてもかなり怒っているんだぞ俺は」 宋さんの声が後ろから聞こえて来て。どきっとして振り返る国井さん。宋さんの手にはポケットに入れたはずのネクタイピンが握られていた。 「あれ?なんで?」 慌ててポケットの中に手を入れて探す国井さん。 「俺を誰と思う?脇が甘い。隙だらけだ」 「返せ」 「未知と子どもたちのデータを消したら返す。日本の警察はこんな卑怯な真似をするのか」 「お前だけは言われたくない」 国井さんが爪先立ちになり背を伸ばしても、ぴょんぴょん飛び跳ねても手が届かない。そのくらい二人の身長の差は歴然としていた。 「少し黙ってくれないか。耳障りだ」 冷ややかな声で答えると国井さんの頭を大きなその手でがっしりと掴んだ。 「頭をこのまま握り潰すか?それとも目がいいか?」 真顔で目がすわる宋さんの怖い顔をはじめて見たかもしれない。組織の実質ナンバー2と言われている、ふと覃さんの言葉を思い出した。ぶるぶると寒くのないのに体の震えが止まらなかった。

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