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番外編彼のもう一つの素顔
水色の病衣のパジャマを着てタクシーの後部座席に座っていたのは額田さんだった。
「東京に向かったはずですよね?」
「そうなんだけどね」
そこで言葉を濁らせる額田さん。
「小山駅で乗り換えたんですか?」
「五分ほど停車しますってアナウンスが流れて、ふと外を見たら、仙台行きの新幹線が停まっていて、足が自然とそっちに向いたというか、気付いていたら乗っていたというか、なんというか」
「苦しい言い逃れをするとは。貴方らしくありませんね」
「あ、あの、すみません」
助手席側の窓が開いてタクシーの運転手が困ったような顔で彼に声をかけた。
「タクシー代ですよね。すぐにお支払します」
「もしかして卯月さんですか?」
「そうですが、なぜ俺のことを知っているんですか?」
「昨日テレビに出てましたよね?」
「うねめ祭りの宣伝でテレビに商工会の会員たちが出たのは確かだが俺は出てないぞ」
「いえ写真で見ました。期待の若手。イクメン保育士。振興組合と青年会議所にはなくてはならない存在だって」
「また余計なことを」
彼が額に手を置いた。
タクシー代を払い、額田さんをお姫様抱っこで慎重に車から下ろす彼。
「イケメンな殿方にまさかお姫様抱っこしてもらえるなんで。長生きするものね」
キャキャとはしゃぐ額田さん。痛み止めを飲んできたとはいえ、包帯が巻かれ、刺されたところがずきずきと痛むのに。僕たちに心配をかけまいとわざと明るく振る舞っていた。
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