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番外編彼のもう一つの素顔

「あおり運転からはじまり、逃げ込んだ先で今度は銃撃がはじまったそうです。最初は映画の撮影でもしているだと思ったんでしょうね。でも一般車両にも無差別に発砲してきて、それで蜂の巣をつついたような騒ぎになったんです。国井さんたちが乗っていた黒いワゴン車は原型をとどめず、穴だらけで、燃料も漏れてていつ引火するか分からない状態だったそうです。佐治兄貴は危険を省みず車に近づいて国井さんを助けようとしました」 「いなかった、ということか?」 「はい。すでに何者かに連れ去られたあとでした。運転手と数人の捜査員は撃たれて血まみれ。すでに虫の息でした」 「そうか、分かった」 「オヤジはなぜ落ち着いていられるんです?」 「落ち着いように見えるか?」 「はい。ものすごく」 若い衆が真面目な顔つきで二度大きく頷いた。 「お前たしか、高橋慶吾とかいったな。とび職を辞めてまでやくざの世界に飛び込んでくるとはな。若いのに根性があると聞いてはいたが、なかなか味のあるヤツが入ってきたものだ」 彼がふふっと微かに笑った。 「最初のうちは掃除と雑用ばかりでおもしろくないだろ?どうだ慣れたか?」 「兄貴たちによくしてもらってます」 「なにかあったらすぐに言えよ。一人で抱え込むなよ」 「はい、オヤジ」 若い衆、いや、慶吾さんが深々と頭を下げた。 「アイツは四季と同じ児童養護施設の出身だ」 慶吾さんがいなくなったあと彼がポツリと呟いた。 「若いっていいな」 「なにを言ってんですか。オヤジだってまだまだ若いですよ」 一緒にいた柚原さんがくすりと笑った。

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