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番外編彼が大好きな、彼フェチのりんりんさん
「お疲れさまです藤田です。営業先に忘れ物をしたので戻るのが遅くなると課長に伝えてください。お願いします」
電話を切り、自分の前を横切ろうとした男の手を掴んだのはグレーの作業着を着た宋さんだった。黒淵の野暮ったいメガネを掛けていた。
『こんだけ暑いのに黒い長袖のパーカーにフードを被りマスクをして、怪しさ半端ない。久し振りだな莫』
中国語で話し掛けられギクッとする男。
『人違いだ』
『初めてを捧げてくれた相手を忘れるほど俺は薄情な男ではない。相変わらず冷たいな。可愛げがないとシェドに可愛がってもらえないぞ』
宋さんの長い指先が男の顎に触れ、マクスを器用に外すとふっくらとした男の唇をそっとなぞった。ぴくっと男の体が震えた。
『う、五月蝿い』
ついさっきまでギラギラと獲物を狙う目付きをしていたのに。顔を真っ赤にする男。
『撃つなら今だぞ。俺が憎いだろう?』
『相変わらず何でもお見通しだな』
『そうでもないぞ。お前の気持ちだけは見通すことが出来なかったぞ』
『その台詞、そっくりそのままお前に返す。ここ で 会っ た が 百年 目だ。浩宇 貴様と決着をつける』
ポケットから拳銃を取り出す男。宋さんの胸に銃口を向けた。
「キャアア――!」
通行人の女性の悲鳴が上がった。
『くそっ』
男は舌打ちをすると、
『覚えておけ、今度こそ貴様の息の根を止めてやる!』
捨て台詞を残し雑踏のなかに消えていった。
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