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【秘密の広森くん】きつつ輝

前が! (見えないー!) 俺はどこにいるんだーッ ……そう。確か部活に行く途中、拉致されて~ (暑い) 暑いよぅ~ これでは部活に行く前に熱中症になってしまう。 す・い・ぶ・ん・ほ・きゅ・うーー 確かリュックの中に…… (炭酸水が) 「ありませんよ」 闇の中、声が降ってきた。 「五限目、生物室に移動する時、全部飲みましたよね」 なぜ、それを知っている。 「知らないわけ、ありません」 ムギュうぅぅー 「だって、俺。先輩のこと大好きなんだから!!」 ―お前は…… ―そうです。俺は…… ―俺の事を ―あなたの事を…… 「全部知りたいと思ってます♥」 お前の名は……………… 「広森ィィイーッ!!」 「先輩、大正解♪正解の賞品は俺からの熱い抱擁」 「もうされとるわーッ」 「じゃあ、俺からの更に熱い抱擁」 「夏場に暑苦しいッ」 「じゃあ、俺からの熱い熱いキス💋」 「いらんわーッ!!」 クッ、この馬鹿力め。 屈強な体は頑丈で、どんなにもがこうとも抜け出せない。 「先輩、くすぐったいです」 「やかましいわッ」 お前から離れたいの! この腕をほどけ。 「嫌です」 「なっ」 後輩のくせに~ 「もうすぐ降ってきます」 「はぃぃ~」 真っ青な夏空。雲一つない蒼が浮かんでいる。こんな日に雨なんて降るわけない。 「はーい、先輩。怖くありませんよー」 「ムギャア」 ムギュうぅぅぅ~ 再び! 前が見えない。 この馬鹿力が。 暑い胸板に無理矢理、頬っぺた押しつけられて、ウニュウ!前が見えない。 ガラン、ガラーンッ 甲高い金属音がぶつかった。 石畳になにか転がっている。 「ごめーん、広森くん。大丈夫だったー?」 「あぁ、平気。気をつけて」 「はーい」 3階からバケツが降ってきた。 掃除していて落としたのか? カラランラーン…… 石畳をバケツが滑っていく。さっきまで俺の立っていた場所。 (こいつが俺を守ってくれた?) まさか、な…… 「俺、先輩の事なら、なんでも分かるんです」 広い胸板から解放されて見上げたお前の顔の向こう側に、蒼穹が風と一緒に泳いでいる。 「先輩が好きだから……」 ねぇ、先輩 「先輩の事、全部知りたいって思うのは悪い事ですか?」 白いシャツから、ふわりと香った。 ホワイトムスクの香り…… お前、こんな大人っぽいものつけてるの? 「だって。モテたいですから」 香りが降りてくる。 耳朶をくすぐって…… 「先輩だけにモテたい」 ドキンッ どうして俺の鼓動が跳ねたんだ? 「先輩のシャボンの香りも好きですよ」 「うるさい」 俺のはただの柔軟剤だ。 「先輩の匂いだから好きなんです」 「この変態」 匂いフェチか。 「先輩フェチです。ちなみに先輩愛用の柔軟剤は~」 えーっ、なんで分かるんだーっ 「そりゃだって。将来、中沢家に入る立場としては、知っておいて当然の知識です」 それってどゆこと? 「あ。それとも先輩が広森家に入りますか?……うん!いいですね!」 はぃぃ~? 話が勝手に進んでるんだが。 「先輩の柔軟剤のメーカーも。 先輩のリュックには毎朝、炭酸水が3本入ってて5限目までに飲みほす事も。 昨日、コンビニでプリンパフェとガトーショコラのどちらを買うか迷って、結局定番のシュークリーム買った事も。 みんな、大好きな先輩の事は全部知ってます!」 「お前はストーカーかッ」 「違いますよ。ストーカーは先輩のオナニーを盗撮しますけど。俺はしません!」 「ナァァァァーッ」 おなっ、おなっ 「オナニー」 「それ!」 俺はおなっ、おなにぃなんか~ 「毎日してますよね♪オナニー♪」 「してないー!!」 「先輩の嘘つき♪」 「~~~」 このストーカー後輩め。 「違います。ストーカーじゃないので、先輩のオナる姿を想像してるだけです!」 ナっ 「するな!」 「今度、先輩のオナニー見せてください。 俺の想像と合ってたら、正解の賞品に先輩の熱いキスください!!」 「この変態がァァァーッ!!」 「譲りません」 「なにを譲らん?」 変態か?自分が変態である事をか。 いい心がけだ。 「先輩をです」 (俺?………) 「先輩をください!!」 ………………俺、告白されたのか? 「あ、先輩」 「なに?」 「降ってきます」 「またバケツ?」 「バケツはもう降りません」 夏空は青く、どこまでも澄んでいる。 雲一つなく、高く高く続く蒼穹 夕立なんて絶対来ないぞ。 「……先輩。俺の胸の中に」 ザバァアアアアーッ 真っ白な水が空に噴き上がった。 「ごめーん、広森くん。濡れた?」 「濡れたけど大丈夫。先輩は濡れてないから」 「ほんと?ごめんねー」 冷たっ ……広森の前髪から水が滴って、俺の首筋にすとんと落ちた。 「ごめん。先輩を濡らしちゃいました」 ギュッ お前の体、冷たいのに。 ドクドクする。 左胸が熱い。 鼓動、燃えそうだ。 「先輩、部活に行くんでしたよね。着替えないと……」 着替えなきゃいけないのは、お前だろ。 びしょ濡れで…… 石畳の上、ホースが踊っている。 ピチピチ 蛇のように。草むらから這い出して。 口から吐き出す水が足元を濡らしている。 全身、ずぶ濡れじゃないか。 「風邪、引いちゃいますよ」 温もりがぎゅっと掴む。 手と手を結んで……恋人繋ぎしてる。 「部活、行きましょ」 ………………先輩、鍵開けて。 ほんとは入れちゃいけないんだ。 俺は美術部だけど、広森は部外者だから。 なのに、どうして開けちゃったんだろ。 美術準備室の鍵 「綺麗です」 お前の吐息が肌を伝う。 「アポロンよりもマルスよりも。どんな彫像よりも、あなたは美しい」 ボタンを外す指が肌を滑る。 「俺の大好きな先輩がまた一つ増えました」 「ァウっ」 そこっ 「ぷっくり膨らんで可愛いです」 胸の小さな実を…… 「もっと色づけたいな」 「ひんっ」 「声、我慢しないでください」 チュウウゥゥゥー 左胸の突起を吸われて、鼓動が跳ね上がる。まるで稲妻に打たれたみたいに苦しい。 「俺もいっしょですよ」 既に脱いでいる上半身に、取られた手を導かれる。 (広森……) お前の鼓動もとっても熱い。 「ドキドキしています」 先輩のせいですよ…… 「俺にしか、そんな顔は見せないでください」 ねぇ、俺はいまお前をどんな顔で見てるんだ? 「教えませんよ。俺だけが知るあなたにしたいから。あなた自身にも教えません」 鍵はかけた。 ここには誰も入れない。 「俺の大好きな先輩の匂い、流れてしまいましたね」 少しだけ濡れたシャツを脱いだから。 「でも、俺の匂いで染めるのも悪くないかな」 俺は……… 「なぁ、広森」 「なんですか?先輩」 「うん……」 勇気を出して、聞いてみよっかな? 「お前の事、好きなのかな?」 「………」 「………」 「………」 えっ。俺、変なこと聞いちゃった? 「あのっ」 「先輩!」 「はいっ」 「結婚しましょう!!」 えええぇぇぇぇーッ 「先輩、可愛すぎて。天使です!!」 はぁー?? 「褒め言葉じゃない。男に言う台詞じゃない」 「ダメですか?俺だけの天使になってくれませんか?」 大きな体をしゅんっとさせて落ち込む広森がちょっぴり可愛くて。 お前だって天使だよ。 ムギュうぅぅぅー 「ギャアァァーッ」 この馬鹿力天使がーッ!! ……………ねぇ、先輩。 俺は天使になりませんよ。 だって。 バケツも、ホースの雨も…… 仕組んだの、全部、俺だから 「大好きですよ、蓮先輩」 男はね、愛する人を手に入れるためならどんなに卑怯になってなれるんです。 それを知らない、あなたは天使ですよ…… (天使の前で、黒い俺は見せたくないな) 「広森、なんか言った?」 「秘密です」 好きな人の前では寛容な自分でいたいから。 嘘つきな俺は、俺だけの秘密 俺を愛してくださいね、先輩 「広森……大好き」 「もいっぺん言ってください」 「やだ」

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