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【うん、たぶん、きっと。】なかじまこはな

毎晩夢に見るのは去年の記憶。 大好きな人に抱かれた記憶。 去年まで僕は母方の祖母の家に遊びに行っていた。程よい田舎で子供も結構いたから遊び相手もいた。 都会に住んでいる僕は川遊びや野山で走り回るのが楽しみだった。 その中で1番年上で子供達の見張り役というかリーダー的な男の子がいた。 優しくてカッコよくて、僕は「ケイ兄」と呼んでいた。 ケイ兄は圭一と言ってガキ大将というより、指導が上手い先生っぽかった。 段々と成長していくと遊ぶ友達も減っていくけど、ケイ兄とは会っていた。 そして、僕が高校生になる頃、ケイ兄は大学生。 高校を卒業する頃には就職して学校の先生になった。 去年……ケイ兄の部屋に遊びに行った時に酔ったケイ兄に抱かれてしまった。 その日、泊まりにいっていて、ケイ兄の帰りを待っていた。かなり酔って帰ってきたケイ兄がいきなり僕を押し倒した。 キスされて、服を脱がされて、驚いたけれど抵抗しなかった。 ケイ兄の部屋の天井の白熱球が視界に入ってきた。それをぼんやりと見ていると下も脱がされて足を開かせられた。 初めてフェラされたし、初めて穴に指を入れられた。 女性とまだ付き合ったことなかったからそういう行為自体が初めてだった。 男性との行為は後ろを使うという知識だけはあった。ネットで調べればいくらでも出てくるから。 セックスしているんだって思いながらケイ兄に抱かれた。その行為は激しくて、気持ち良くて……そして悲しかった。 行為が終わった後、裸のまま抱き締められて眠った。ケイ兄と一緒に眠ったのは幼い頃の蚊帳の中。大好きなケイ兄と眠れるのことが嬉しかったのを覚えている。 でも、次の日。 「ごめん」 とだけ謝られた。 謝らないでと言った。謝ったら過ちだと認めてしまうからと。 それでもケイ兄は僕にごめんと言った。 そのまま別れて。家へ戻って謝られた事が悲しくて泣いた。酔った勢いだと……分かっていた事をハッキリ言われると傷つく。余計な事を言わないで欲しかった。僕だって子供じゃない。ケイ兄が本気じゃないって事くらい理解できたのに。 悔しくて一晩中泣いた。 泣いた次の日、祖母が亡くなったと聞いた。もう、ケイ兄の所へ行く理由が完全に無くなってしまった。 そして、今年の春にケイ兄の結婚が決まったと聞いた。悲しい事は重なるのだ。 きっと、これは罰だ。 好きになってはいけない人を好きになったから。 ◆◆◆ 「律、別にいいのにアンタが婆ちゃんの家片付けなくても」 玄関で靴を履く僕に母が話しかけてきた。 祖母の家を解体して更地にするらしい。だからその前にお世話になった祖母の家を綺麗にしてあげようと思った。 「いってきます」 僕は笑顔で手を振って家を出た。 何時も祖母の家に行く時に使っていた電車やバスを乗り継いで家へ辿り着いた。 「いらっしゃい律、おかえり」 そう言って笑顔で迎えてくれた祖母。 もう居ないんだなぁって寂しくなった。 家へ入り、中を見て回る。 とても懐かしい。縁側でスイカ食べたり、庭で花火をしたり、本当に楽しかった。 この家にケイ兄も来た。 蚊帳を祖母がつけてくれるのが楽しみだった。なんか特別な気持ちになれたから。 家具はほとんど処分されてあまり残っていない。それを片付けにきたのだけれど、庭が見える縁側にポツンと座る。 よく垣根からケイ兄が顔を出して「よう!律、きたな」って会いに来てくれた。 その垣根を見つめる。 もう、きっとたぶん会えない。 結婚するって聞いたけれど、結婚したとはまだ聞いていない。でも、いつかするだろう。 待っても来ないケイ兄をつい、待ってしまう。 待ちぼうけくらうのに。バカみたいに。 少しぼんやりとして、その後は立ち上がり、掃除をしたり色々処分したりした。 すっかり日が暮れて、帰ろうと思ったけれど、ここに泊まるのもいいかな?と思った。 布団はないけれど、畳に寝ころべばいいし。 畳に寝転ぶと外で音がした。野良猫かな?と思って庭の戸を開けて野良猫を探す。 「律……」 名前を呼ばれ驚いて顔をあげるとケイ兄が垣根の向こうに居た。 「なんで?」 同じ言葉がハモった。 「なんでケイ兄いるの?」 「律だって、どうして……婆ちゃん家壊すんだろ?」 「うん……そうだよ?ケイ兄はなんで?」 僕はちゃんと話せているだろうか? 「灯りついてたから何でかな?って」 「片付けを」 「そっか……」 「ケイ兄結婚するの?」 「…………」 僕の質問にケイ兄は黙り込む。 「するんだ?おめでとう」 僕はそう言って戸を閉めようとした。すると、垣根を越えケイ兄が庭へと入ってきて、靴を脱ぐと家の中へ。 驚く僕の目の前で戸をきちんとしめて「結婚はしない」と言った。 「嘘……母さんからきいた」 「勝手に見合い話がきただけ、断った」 ケイ兄は僕に近付くと腕を掴み、そのまま引き寄せて抱き締めた。 「ダメなんだ律が忘れられない」 「えっ?」 僕は驚く。 「好きになってはダメだと自分に言い聞かせていた、でも、あの日我慢できなくて律を」 ケイ兄の声は震えていて、大人だと思っていたケイ兄が何だか子供みたいに感じた。 「律……すきだ」 ケイ兄の言葉に僕は「待ちぼうけくらうかと思った」と言った。 「ここに来てもケイ兄には会えないってずっと思ってて、待ちぼうけしても良いからケイ兄の思い出にすがろうかって……」 そう言って泣いてしまった。 ケイ兄は僕を抱き締めたまま「律、愛してる」と言った。 ああ、そっか、よかった。待ちぼうけにはならない。 これからも、うん、きっと……たぶん。いや、絶対に!!

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