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第3話

ーー リーフ side ーー 失敗した。 可愛らしくてつい、調子に乗ってやり過ぎた。 まさか少し指を舐めたくらいで泣くなんて思わないだろう。せっかく用意した贈り物も料理も無駄になってしまう。 ……いや、そんなものはどうでも良い。問題は泣かせてしまった事だ。とにかく謝らなくては。 私はもらった野菜を宿に運んで使ってくれるよう頼み、前もって聞き出しておいたイーノの家を訪ねて扉を叩いた。 「イーノ、済まなかった。もうあんな事はしないからきちんと謝らせてくれないか?」 しばらく待っても返事はない。 ……裏に回ってみて、聞こえてきた声に愕然とした。 (もうやだ! もう死にたい……!) そ、それほどまでに……? 私はそこまで嫌われてしまったのか。嫌だ! 信じられない言葉だが間違いなくイーノの声だ。嫌われたくない! 生きていて欲しい!! 「イーノ! 私だ! あや……謝るから! お願いだ……死なないでくれ!!」 「リーフ様!?」 小さく聞こえていた声がはっきり聞こえ、私の名を呼んでくれた。謝罪は届くだろうか? 「イーノ、……私のいたずらが死にたくなるほど嫌だったなんて…… 嫌われたくないのに……。本当にすまなかった。つい、出来心で……君が死んでしまったら私は自分が許せない! 私を恨んでも良い。殺しても良い。だから、死なないでくれ!!」 「どうしてそうなるんですか!?」 イーノが窓から顔を出してくれた。 「私があんないたずらをした事が汚らわしかったのだろう?」 「違います! 俺が……俺が……! 浅ましいのが!」 泣きながら窓の向こうから語ってくれた内容は「気に入りの人間」から「愛しい人」へ切り替わるに十分だった。 「私のいたずらで肉欲が刺激されてしまったのか。素直で愛らしいイーノ。どうか私に触れさせてくれ」 「どこを!?」 「全てだ。イーノの顔も身体も体内も、できることならその心にも」 「とっ、とりあえず中に入って下さい。野次馬が……」 気がつけば近所の住人が集まって来ている。心配ないと笑顔で告げたら何故か拝まれた。 「早く入って下さい!」 イーノに急き立てられて家に入ると、中は質素だが綺麗に整頓されていた。 ーー イーノ side ーー 恥ずかしくて逃げ出してしまったのに、追いかけて来てくれた。 しかもしかも! 俺の事、愛らしいって! 身体にも心にも触れたいって!! それってプロポーズ? プロポーズなの!? だったら毎日この美しい顔が見られるって事だよね! いや、まさか俺なんかにプロポーズとかありえないだろ!俺、落ち着け! とにかく落ち着こうとダイニングに座ってもらい、お茶を出した。 「リーフ様…… あの、本当に…… 触って…… くれますか?」 「イーノ! あぁ、ありがとう。優しくするよ」 そう言ってぎゅっと抱きしめてくれて、とても優しく頭を撫でられた。 ナデナデ…… なでなで…… 撫で…… 「あの……?」 「ん? あぁ、立ったままでは疲れてしまうかな? だがソファは……」 ソファないよ! そっか。いきなりベッドはダメなのか。うーん……。 「リーフ様、ここ、座ってもらえますか?」 「もちろん」 「えへへ…… 失礼します」 椅子に座ってもらって膝に乗る。うわうわうわ! こんなに近くにリーフ様のお顔が!! 「イーノは本当に可愛いな」 「りーふ、さま……」 綺麗なお顔がどんどん近づいて来て、ふわりと柔らかいものが頬に触れた。これは!! 「りーふさま、いまの…… きしゅ?」 「キスだよ。嫌だったかな?」 「きしゅ…… はじめて…… うれ、うれしっ……!!」 「あぁ、泣かないで。イーノは嬉しくても泣いてしまうの?」 「だって!」 前世も今世も一人っ子だったし、恋人いた事ないし、両親以外からのキスなんて夢のまた夢で!! 感動のあまり泣いてしまったって仕方ないんだよー!! 「イーノの初めてのキスを、私にくれるかな?」 「はははははひっ!!」 俺はリーフ様の白くてすべすべの頬にキスしようと顔を近づけた。 ??? 予想と違う感触に首をかしげると俺の唇が触れた場所が動いて暖かくてぬるっとしたものが俺の唇を舐めた。これはまさか!? 「くち!?」 驚いて身を離すとぺろりと薄い唇を舐める赤い舌が見えた。え? くち と くち? ほっぺじゃなく? ……え? 「イーノ?」 ぼひゅうぅぅぅぅっ!! 俺は驚きすぎて知恵熱を出した。 30にもなって知恵熱。 なさけない! でも。 リーフ様の美しさが罪なんだ!! 突然の発熱で目を回した俺はリーフ様に面倒をかけてしまった。

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