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第6話
俺だって知っている。
こんなに至れり尽せりでポーターに迎えられるなんて有り得ないって事を!
普通は自分で装備を揃えて売り込んで重い荷物やかさばる荷物を背負ってあちこち引っかかりながら必死で冒険者さん達について行くのだ。ガラの悪い冒険者に当たると報酬以上の仕事をさせられるって聞くし、冒険者以上に厳しい仕事だ。
なのに俺ときたら。
装備を支給されリーフ様と一緒にいられ、理不尽な事をされる可能性も極薄。リーフ様を置いて逃げろって言われるくらいだろうか? そんな事は出来ないけど。
エスグリさんもかっこいいけどリーフ様の神々しさに比べたらまだまだ人間の域を出ない! ……人間だしな。
そして少し早まった出発に同行者が増えた。
リーフ様が樹海の奥まで護衛した貴族のガナドール様。エスグリさんにリーフ様の様子がおかしいから理由を調べてくるように依頼した上に、面白そうだからと同行することにしたらしい。
俺を見に来たのか。
「イーノ、リーフは美しいな」
「はい!」
「そこでこんな魔道具を作らせたのだが、リーフが拒否をするんだ」
「リーフ様が嫌がる事は……」
「リーフの絵姿をいくらでも残せるのだぞ?」
「貸して下さい!」
使い方を教わり、試しにガナドール様を撮るとその姿が黒水晶の板に映し出された。
「すごい! これでリーフ様を撮ればいつでもリーフ様が見られるんですね!」
「とは言え、この黒水晶の板の数だけだ。それを超えると初めの板から新しい絵姿に置き換わってしまう。100枚しか用意できていないからあまり無駄使いはしないようにな」
「はい!」
手のひらサイズの魔道具「精霊の瞳」をポケットに、手のひらくらいの大きさでかなり薄い「黒水晶の板」をリュックに入れてホクホクしながら出発した。俺たちは歩き、ガナドール様は馬車だ。
「ガナドールと何を話していたんですか?」
「あの……リーフ様が美しいって……」
絵姿を写されるの、嫌なんだっけ。
勢いで借りちゃったけど良いのが撮れるかどうか……。しばらく黙って様子を見よう。
「あの、それで今回の行き先はどこですか?」
「あぁ、言っていなかったか。まずは私の家のあるガナドールの街、王都の東の大きな街だよ。そしてそこから北にある湖水地帯のエルフの里へ行ってエルフの長に挨拶をする。そして満月の夜にだけ咲く銀芙蓉の蜜を集めるんだ」
「エルフの里!?」
「ふふ……エルフの顔が好きなイーノを連れて行ったらそこに住みたがるかな?」
「そんな事は! ……ない、と思います、けど……」
「もうそんな時期か。イーノ、エルフ達は怖いぞ〜! 人間の事は虫ケラ扱いだからな。お綺麗な顔で呪い針投げて寄越すんだぞ」
「それはあなたが不埒な事をしようとしたからでしょう」
「服の構造が知りたかっただけだ!」
「ならば服だけを借りれば良いでしょう。着ている服を脱がせる必要はない」
「それじゃつまらん」
失礼な事をするのが悪い、と心の中にメモした。
ポーターになったばかりで歩き慣れていない俺の足はマメができて潰れた。痛い……。無理していたらリーフ様に見つかり休憩の時に手当てしてもらってしまった。傷薬を塗って包帯を巻いてもらう。申し訳ない!!
でも手当のおかげで全然痛くなくなって食事を運んだり片付けを手伝ったりしたらガナドール様の従者の人達と仲良くなった。ガナドール様のおかげで食事も上質で美味しい。
今後のために料理を教えてもらった。
次の町まで一泊だけ野営する。
「イーノ、旅の間は湯浴みができないから浄化魔法で我慢だよ」
「普段は水浴びですから浄化魔法もいりませんよ?」
「汚れから病になる事もあるから浄化魔法は必要だ」
知らなかった……。
でも魔法なんて使えないから困っていたらリーフ様が浄化してくれた。なんだかすごくさっぱりして、生まれてこの方経験した事がないほど髪がサラサラになった。前髪が邪魔!
「これは少し香油を使った方がいいね」
リュックから綺麗なガラス瓶を取り出して花の香りのする油を俺の髪に塗ってくれた。おお! 前髪が邪魔にならない!
広いテントで並んでマントに包まって眠る。疲れていたのですぐに眠ってしまった。
ーー リーフ side ーー
ガナドールから不愉快な魔道具を押し付けられたようだが知らぬふりをする。歩き慣れない足はまだ皮膚が薄くてマメが出来て潰れてしまっていた。手当てをしてやると恐縮していたが素直に感謝していた。
そしてくるくると使用人達の手伝いに動き回り、仲良くなっては教えを請う。なんて可愛らしいのだろう。
そして夜、テントで浄化魔法をかけてやり、髪を香油で整えると色気が増した。……なのに平然と隣で横になり、スヤスヤと眠りに落ちる。信用されているのは嬉しいが……。
常より幼く見える寝顔を眺めていたら胸が温かくなり、些細な事は気にならなくなった。
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