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第18話

ーー リーフ side ーー チェイサーのおかげで酔い方が緩やかだったが、イーノは今、確実に酔っている。呂律が回ってないし、足元も覚束ない。そろそろ宿に戻るべきか。 「しゅみましぇん、お手洗いに…… おっと……」 「大丈夫か?」 「しゅこし よろけただけですから、大丈ー夫!」 「……まっすぐ歩けてねぇぞ」 「私が支えよう」 「えーっと、ダメれす。リーフ様にトイレのてつだいなんて、お願いできましぇん! エしゅグリしゃん、おねあいしましゅ!」 「なんでだよ!」 「何故だっ!!」 イーノが思いもよらない事を言うものだから、声を荒げてしまった。だが何故エスグリなんだ! 「リーフしゃまもルーしゃんも、きれいだからでしゅ! きれいなひとにトイレは似合いません!」 「いや、こいつらだってトイレくらい行くだろ?」 「じょーかまほーで、といれいらず でしゅ!」 …………非常時にはそうする事もあるが、基本はトイレを使っている。何故そう考えるのか、と不思議に思ったが、酔っているだけだろう。 「だからエしゅグリしゃん! おねまいしましゅ!」 「えー……」 「エスグリ、分かっているな?」 「いや、こいつに興味ないっての! ルーなら喜んで世話するんだけどなぁ」 手を出すとは考えていないが、エスグリにイーノの肌を見せたくない。だがイーノが駄々をこねる。仕方がない。 エスグリに指示を出し、イーノを支えさせて後ろからついて行く。そしてトイレに入ってからさりげなく立ち位置を替えてイーノを支えた。 「ありぇ? エしゅグリしゃん、良い匂いがしゅる……? リーフしゃまみたい……」 「俺だから安心しろ」 「良かったぁ」 気を利かせたエスグリが後ろから声をかけててくれた。 用を足し終わったのを見計らい、衣服を整えてやってエスグリと交代する。やはり宿に戻った方が良いだろう。 私はイーノを抱いて帰った。 ーー ルー side ーー 「結局、リーフ様に世話させたの?」 「おう! 俺はいやだったし、リーフはやりたがったんだからちょうど良いだろ?」 「信じらんない!!」 人間の癖にリーフ様にしっ、下の世話をさせるなんて! それならぼくがした方がましだった!! でもアイツ、ハーフエルフもエルフと同列に扱ってくれて……。半端者なのに……。 「それにしても、変なやつだよなー、イーノって」 「……本当に変わり者」 「でもリーフに似合いかもな」 「どこが!?」 「リーフだってエルフだぞ? 興味のない奴にはとことん冷たいんだ。けど、イーノには興味津々だし、めちゃくちゃ甘やかしてるし。それにイーノはアホな程に邪気がない。いくら構っても、構い過ぎても、喜ぶだけだろうからな」 ぼく達ハーフエルフなら、エルフに構ってもらえるなら他の全てを犠牲にしても良いと考えるけど、他の種族はそこまでではない。ただの憧れで、自分の生活に支障が出ればすぐに迷惑がる。 迷惑がられると他種族への興味が薄れてしまい、翠珠街に引きこもってしまう。……プライドが傷つくのかもしれない。 「……そ、だね、お似合いかもね」 ぼくは渋々、エスグリの意見を肯定した。 ーー 店長 side ーー そろそろおいでになる時期だと、リーフ様用に仕入れておいた食材が好評で良かった。マジックバッグの中も時が止まる訳ではないから、鮮度が重要な大巻貝は保って1週間。良い品が届いて良かった。 それにあの酒。 あの酒には熟成したのと同じ海域で獲れる魚介が最高だとされている。運が良かった。 リーフ様がお連れになったイーノと言う子もなかなか可愛らしくて、あのルーが普段より素直になっていた。リーフ様も常より寛いでいらっしゃったし、エスグリもルーがいれば大人しいので、とても良いひと時を提供できたと思う。 今夜は他の客も穏やかだった。 リーフ様が戻られるまで、エスグリにルーの好物を依頼しておこうか。 熟成が必要なカタミドリと、険しい崖に生えるオドリソラゴケと、通りかかった生物に種を飛ばして埋め込むバクレツウリの根と、枯れ木に擬態した巣を作るタクミバチの巣もついでに。 ……Aランクの依頼ばかりですが、エスグリなら余裕でしょう。 「エスグリ、お願いしたい事があるので明日、ギルドに行って下さい。依頼を出しておきます」 「任せろ! ルー、美味いの獲って来るから楽しみにしておけよ!」 「べ、別に好き嫌いないし……」 「おや、良いんですか? この時期渡って来るカタミドリは最高に美味しいのに」 「カタミドリ!? で、でもアレはまず、見つけるのが難しいはずじゃ……」 「あー……、まぁな。けど近くに居れば何となく分かるから、見つかるよう祈っててくれ」 エスグリはニンゲンとは思えないほど勘が良いので、きっと見つけてくれるでしょう。先月からこちら、2件ほど目撃情報があるので渡って来ている事は間違いない。 渡り鳥でありながら空を飛べず、高速で走って大陸を端から端へ渡るこの鳥。下生えの中を縫うように高速で走り回るため、筋肉が発達して身が硬い。この時期は営巣のため、より色が地味になっていて見つけづらい。が、脂が乗っていてとても美味だ。 新しい特製調味料との相性はどうだろうと想像しながら店を閉めた。

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