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第19話

ーー リーフ side ーー ふらつくイーノを支えながら宿に戻り、寝る前に、とトイレに連れて行った。だがやはり私の介助を嫌がる。 ……何故だ。 「イーノ、これからいつ、どんな怪我や病に倒れるかも知れない。なのに私に介助をさせてくれないのではパーティーを組む事はできない」 「……え」 「死なせたくないんだ」 酔ったイーノに言った所でどうにもならない可能性もある。だが、酔っているからこそ本音が聞けるかも知れない。 「……だって……。 りーふしゃまに ちんちん しゃわられたら…… たっちゃうから…… こまりゅ」 「困る…………?」 「こまりゅの」 なんだその可愛い理由はーーーーー!! だが排泄時に勃起しているとトイレを汚してしまうのは理解できる。私は少し考えて囁いた。 「イーノ、私が直接触らなければ大丈夫なのではないかな? それに、酔うと勃起しづらくなる。周りを汚すほどにはならないはずだ」 「えーっと……、んーっと、だいじょぶ、って ことれしゅか?」 「そうだ。大丈夫だ」 だいじょぶなのかぁ、とぼんやりしながら言っているので、意識がはっきりしないうちにトイレに連れて行った。案の定、兆す程度だったので普通にできた。 ベッドに寝かせて着替えさせる途中、意識が無い状態だが、実際に勃ちが悪くなるのか確認してしまった。 ……半分程度の硬さのまま、白濁を吐き出したので、私は自分の提案が嘘にならなかった事に安心して、眠りについた。 ーー イーノ side ーー 酒場から宿まで帰って来た記憶がない。 水をたくさん飲んだおかげか二日酔いにはなっていないのに、記憶がない。 リーフ様に失礼な事、してないかなぁ? 隣で穏やかな寝息を立てるリーフ様に目を向ければ、朝日だけではない、小さな光が煌めいていた。 「これは……?」 「……ん、おはよう、イーノ。よく眠れたかな?」 「はい、とても良い目覚めです。リーフ様、その光は……?」 「ひかり……?」 寝ぼけ眼で辺りに視線を彷徨わせたリーフ様は、ふっと笑って説明してくれた。 「小精霊の事かな? 翠珠街は碧翠郷に近いから、時々こうして遊びに来るんだ。害はないよ」 「害なんて!! 小精霊と言えば幸運をもたらすと言われているじゃないですか!」 そう言ったら小さな光がふよふよと近づいて来た。目の前に来ても眩しくない、優しい光。 「おや? イーノを気に入ったのかな?」 小精霊の1体がおれの髪に付いているらしい。小精霊は気紛れなのでいつまで居てくれるか判らないが、幸運の印だ。リーフ様と共にいる事を肯定されたようでとても嬉しい。 おはようのハグをしてから宿を出た。(照) 「じゃ、オレはここで待ってるからな」 「待つ必要などありませんが」 「旨いもん獲って来てやるから!」 「旨いもん!」 どんな物だろう? 大巻貝もチーズも美味しかったよなぁ。森の浅い所や近くの崖でも珍しい食材が獲れるって噂を聞いた事がある。渡り鳥も美味しいらしい。 わくわくと想像していたらリーフ様に苦笑いされてしまった。……恥ずかしい。 「では、イーノのために美味しい食材を獲って来て下さい」 「おれのためなんて「遅くなりました!!」 おれのためにレア素材を獲ってくるなんて申し訳ない、と言おうとしたらルーさんの声にかき消された。 「これ、お返しします」 「……あれ? これ……」 「貸してくれた事、覚えてないの?」 黒水晶の板しか貸してない気がするんだけど、絵姿を映しとる魔道具の方も貸したっけ? 「……ごめん、置いてあったから貸してくれたものと思い込んだけど、忘れていっただけだったのか」 「あ! おれが酒場に忘れたんですね。なら届けてくれてありがとうございます!」 「怒らない?」 「感謝しかありませんよ」 研究したいあまり、状況を都合よく解釈してしまったのが不安なのか。真面目だなぁ。 「何か分かりましたか?」 「うん! これね、風の魔法陣と光魔法の触媒の組み合わせなんだけど、ここに魔双晶が半分嵌めてあるから、もう半分は黒水晶に埋めてあると思うんだ。けど、こんなにたくさんの黒水晶に対応できるなんて不自然なんだ。一体……」 「ルー、その研究はまたここへ戻って来た時にね」 「はっ、はい! すみません!!  止まらなくなってしまったルーさんを笑顔で止めて、出立を告げるリーフ様。宿のご夫妻も見送ってくれたので、挨拶をして街を出た。 ーー ルー side ーー 自分もついて行きたいけど、碧翠郷にハーフエルフは入れてもらえない。だから見送るしかなく、つい、引き止めようと余計な事を喋ってしまった。説明しても理解や興味を持ってもらえる訳でもないのに。 「ルー、絵師の所に行こうぜ」 「……1人で行けるし」 「いいから、いいから!」 エスグリに押し切られて2人で絵師の家に行く。……この人もハーフエルフだから会いたいのか? 「絵師は恋愛対象じゃないぞ!?」 「でもハーフエルフが好きなんだろ?」 「歳の差70って、ちょっと歳が離れすぎだろ!? 綺麗なおじいちゃん、って感じだしさぁ」 「誰がおじいちゃんだって? 耳は遠くないぞ?」 「わっ! 絵師!!」 名前を呼んで良いのは伴侶だけ、と他人には職業でしか呼ばせないから本当の名前はみんな知らない。 ぼくは水晶板を見せて絵にしてもらえるよう依頼した。

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