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第4話

 しばらく部屋に静寂が戻った。隣でカイがやや荒い呼吸を繰り返している。遊馬はそれをじっと見る。カイの顔は少し赤みがさしていて、少々だが汗ばんでいた。遊馬も途中で止まっているから、もどかしくないわけでもないが、まぁトイレにでも行けばいいと思う。これで少しはカイも理性を取り戻して、最後までやるとは言わな、 「……つ、続けますよ……」  えええ……。遊馬は眉を寄せた。カイは見るからに体力を消耗している。それに普通はしないような事もしたのだから、もう終わりでいいんじゃないかと思う。だがカイは最後までしないと気が済まないらしい。あくまでカイが女役だと約束したから、負担はカイにかかるわけだが。 「だ、大丈夫かい」 「大丈夫、です、僕に、任せて下さい、僕、慣れてますから」 「……」  遊馬が深く眉を寄せたのに気付いたらしい。カイは慌てて「あ、いや」と首を振る。 「クリアする為なら、徹夜だって、なんだってしてきました、だから、無理は慣れてるって、それだけです、別に、僕だってこんな事、初めてです……」  慌てたカイというのも初めて見た。色々考えつつ見守っていると、カイはのろのろと自分の体に触れている。ほぐすつもりらしい。自分で体に指を入れているらしく、苦しげに目を閉じて、深呼吸を繰り返している。 「……痛くないの?」 「……痛くは、無いです、けど、……流石に、気持ち悪い、ですね……」 「無理はしちゃ駄目だよ」 「大丈夫です……ただ少し、時間はかかるかも、……」  もぞもぞと体を動かしている。時折辛そうに眉を寄せたりしているのを見ながら、遊馬は「本当に大丈夫なんだろうか?」と考える。そもそもあんな所、人を受け入れるようには出来ていないだろうし。どれぐらい解せばいいのか、そもそも入れて大丈夫なのか……。 「……なんか、有んの? ゴムとか……」 「……有りますよ……、その辺に」  自分の事で精一杯なのか、カイは視線だけで場所を教える。視線を追って調べてみると、ベッドサイドの引き出しに、ポツンと二枚置いてある。良く判らない。普通は箱とかじゃないのか。何かと判らない事ばかりだ。とにかく、こうして準備してあったりもするし、間違いなく自分ははめられたのだ。おまけに悪くすれば犯されていた。  一枚摘んでプラプラさせてみて、それからカイを見る。カイは苦労しているようだ。まあそもそも手が届きにくい位置だし……と遊馬は考え、それからもしばらく考えて、考えぬいてから、カイに近付く。 「手伝うよ、カイちゃん」 「え、……いや、いいです、大丈夫……」  慌てて断ろうとするカイを無視して、遊馬はカイをうつ伏せにさせた。子供のように脚を曲げていたものだから、尻だけ上げた状態でうつ伏せになってしまった。その拍子に指は抜けてしまったらしい、「あ」と少々妙な声が聞こえた。  それが今まで聞いた事の無いような声音だったから、遊馬もその気になった。傷つけないように、ゆっくり指を押しこむ。意外と入るものだ。カイが小声で何か文句を言っていたが、うつ伏せだからか、指が苦しいのか、上手く聞き取れない。入りそうだったので指を二本に増やすと、うう、と苦しげな声が漏れた。 「大丈夫?」 「う……なん、とか……っ」  それでも止めろとか言わないところが、すごい。この男のゲームに対する執着は一体何なのだろう? 理解は出来なかったが、手伝うと約束した以上、カイが止めろというまでは続けようと思った。 「もう、もう大丈夫ですから……っ、さ、さっさと、終わらせて下さいっ」  長い事前戯に費やした。なかなか解れるものでもなかったから、時間をかけたので、カイの方が痺れを切らせた。遊馬もこれなら大丈夫かな、と思っていたが、何も言わずに愛撫を続けていた。少々の意地悪をした事は間違いない。何しろ、指を動かしているうちに、カイが感じ始めているのが判ったからだ。  遊馬はホモの事も、男の体の事もよく判らない。だが、カイが僅かながら感じ始めているのだけは判った。最初こそ苦しそうなだけだったのだが、今は困ったように身を捩ったり、時折溜息を吐いたり。第一、ソレが反応しているのが見て取れたから、遊馬も面白くなって愛撫を続けたのだ。 「大丈夫? ホントにかい?」 「ええ、もう大丈夫ですから、さっさと、さっさとこの茶番を終わらせましょう……!」  自分で吹っかけておいて、茶番呼ばわり。まあ遊馬もそうだとは思っている。こんな事をして恋愛などが判るわけが無し、それ故これのおかげでゲームがクリア出来るわけでもないだろう。それでも、カイが望むなら、遊馬は断らない。 「んじゃあ、遠慮なく……」  指を引き抜くと、カイが息を呑んでビクリとする。解放された事に安心でもしたのか、少し力を抜いているようだ。だから、そのチャンスを逃さなかった。 「―――っ!」 「う、あ、カイちゃん、……きつい、きついって」  ぐ、っと後ろから侵入を試みる。流石に痛いのか、カイの体が強張っている。慌てて体をさすったり撫でたり、それでも駄目だから前を擦ってやったり。痛みに萎えたそれを扱いてやれば、カイの体から少しづつ力が抜ける。その合間を縫って、ゆっくりと侵入を続ける。 「……っ、カイちゃん、入った、よ……」 「……」 「カイちゃん?」 「……」 「ねえ、大丈夫? 入った……」 「聞こえてます! 大丈夫です!」  カイはそれだけ言って、また黙りこんだ。ふうふう浅い呼吸を繰り返しているから、かなり痛いのか、辛いのか。それでも止めると言わない。本当に強情だ。遊馬は苦笑して、しばらくそのまま待ってみた。一応確認してみたが、血も出ていないようだし、たぶん本当に大丈夫なのだろう。  しばらくしてカイの呼吸も落ち着いたので、ゆっくり動いてみた。「うぅ、」と呻いたが、カイは痛がらなかった。そのままじんわりと動いていると、またカイの呼吸が荒くなってくる。しかし今度は、恐らく痛みのせいではない。 「カイちゃん、かわいいなあ」  率直に口に出した。カイは聞こえてないのか、何の反応もしなかった。ただぎゅっと唇を噛みしめて、眉を寄せている。両手がぎゅうとシーツを掴んでいるのが見えて、少々愛らしくなった。気持ちが良いのだ。  遊馬の方もぎゅうぎゅう締めつけられて、気持ちが良かった。痛がらないので、少しづつ腰の動きを早く、大きくしてみたが、それでも止めろとは言わず、いや、言えないのかもしれないが、ただカイはシーツに顔を埋め、震えていた。本当なら喘いでるのかなあ、と思うと、少々もったいない気もしたが、無理に声を出させようとも思わなかった。男の喘ぎ声など、聞いても仕方無い。  それに遊馬のほうも、もう余裕が無かった。ぐいぐいと欲望に任せて腰を動かす。辛くなったので、カイに抱き付くような形になった。カイは文句も言わない、恐らく言えない。ただじっと堪えているが、体が震えているからカイももう追い詰められているのは判る。だが尻でイけるとも思えなかったので、前を扱いてやった。  うう、とくぐもった声が小さく聞こえる。カイちゃん出していーよ、と呟いて、遊馬も自分の事に集中した。途中で支える物が欲しくて、カイの手の上に自分の手を重ねた。  カイの手は、遊馬のそれより小さかった。  俺……俺何やってんだ……。  疲れ果てて、一眠りしてしまったらしい。眼が覚めて、遊馬は青くなった。裸のままベッドで寝ていたようだ。隣にはこちらに背中を向けたカイ。一眠りして頭の回転も良くなった遊馬は、今更とんでもない事になったと改めて思った。  頼まれたってたかがゲーム友達の、しかも男抱くとか、無い、絶対無い……。そう思いながらカイを見る。カイは眠っているのか、何も言わない。  どうしよう、俺……。  遊馬が絶望していると、 「クリア出来るまで、続けてもらいますから。また来週、来て下さいよ。水曜日は遊馬さん定休だって、前に言ってましたよね。僕もですから」  と、カイが掠れた声で、呟いた。

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