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①水も滴るーーいい男?

 ◆第二話◆  ピチュピチュと聞いたことのない小鳥のさえずりが聞こえる。  ――いや、聞こえるのはそればかりじゃない。  庭にある鹿威(ししおど)しは水が流れたその後にカコンと乾いた音を立てているし、一陣の風が舞えば竹の葉が揺れてサワサワと音をたてる。  本来なら、風情があるこの空間はとても落ち着くはずだが、今はそうじゃない。  俺がいる15畳はあるだろう広い和室――。  ここはとある料亭。  障子越しから庭を見やれば、広い池が見える。  その池の中には優雅に泳いでいる立派な赤と白の美しい模様の錦鯉(にしきごい)がいて、柔らかな日差しに照らされ、鱗が輝いている。  ――ああ、俺も早くここから出たい。  池の鯉のように優雅に泳いでみたい。  ……なんて思っても、それは土台無理な話だ。  叶わぬ願いに人知れず、俺はこっそりため息をついた。

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