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⑰水も滴るーーいい男?

 母さんはチラリと心配そうに俺を見るが、こんなところで動揺なんて見せられない。  俺は大丈夫だと頷き、小さく息を吐く母さんを目の端に追いやった。  ……カタン。  障子が閉まる音が静かな部屋に響く。  当然、俺の心中は穏やかじゃない。  嘉門さんの一存で勝手に話を決められてフツフツと怒りがわいてくる。  何も言い返せない自分に腹が立つ。  怒りを表に出さないよう、膝にかぶさっているワンピースを握り込み、顔をうつむけた。  ……わかってる。  この怒りは月夜に向けるべきものではない。  父親の嘉門さんに言うべきところの問題だ。  だから俺は息子の月夜に怒鳴りつけてしまわないよう、唇を噛みしめた。  広い部屋に取り残された俺と月夜はただただ押し黙る。  長い沈黙が続いた。  だが、それもすぐに打ち破られる。 「……ごめんね」  静かな、静寂が部屋を包む中――月夜は俺にぽつりと謝ったんだ。

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