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③同意を求められて
病気――ではないと思う。
今までにそんな兆候はなかったから……。
「……っつ」
俺は痛みを訴える胸のあたりを、料亭の人から貸してもらった着物の上から押さえた。
「どうしたの? 寒い?」
彼は俺の異変に気がついたらしい。
俺の様子を窺ってきた。
茶色の瞳が心配そうに俺を写し出す。
「あ、だいじょうぶ……です」
「ほんとうに?」
胸の痛みで言葉が詰まった。
だから俺はコクンと頷 いてみせた。
すると月夜のつり上がった眉尻が下がる。
「花音 さん……って。写真で見るよりもずっと可愛いね」
それはそれはにっこり微笑んで葉桜 月夜はそう言った。
「…………」
――可愛いなんて言葉は男として侮辱 とも取れる。
それなのになんでだろう。
月夜に、『可愛い』と言われても悔しくない。
『可愛い』を自然と受け入れられる。
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