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⑮嫁? 夫? 同居生活のはじまり

『自分らしくある』  そこで俺ははっとした。  たしかに俺は今、花音の格好をしてはいるものの、性格まで花音に似せることはできない。  俺は俺であって花音は花音だ。  自分を偽ることなんて到底無理な話だ。  でも月夜はどうだろう。  ……ああ、そうだ。  嘉門さんだ……。  そこで俺は月夜とはじめて対面した時の事を思い出した。 『転入許可はすでに取ってある』  有無を言わさない嘉門さん。 『いかがかな?』  まるで選択権があるようにみせたが、その実はもう決められている事項。  それは相手を頷かせるための、『言葉』という鎖。  自分の意見に責任を持たせるための、反感をなくすためのもの――。  許婚として料亭で対面したあの日。  嘉門さんが見せたあの傲慢(ごうまん)な態度……。  彼はいつもあんな感じなのだろう。  月夜はきっとこれまで華道家としてのレールを幼い頃から敷かれて生きてきたんだ。

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