141 / 305

⑤良くも悪くもドキドキ。

「おはよ」  月夜を避けて一目散に教室へと逃げ込む。  素早く椅子を引いて自分の席へと座り込めば……。 「おはよ~、あれ? 葉桜(はざくら)くんと喧嘩でもしたの?」  俺の隣の席の女子、えっと名前は名岸(なぎし)だっけ?  彼女は、ひとりで教室に入ってきた俺に尋ねてきた。 「喧嘩? してないけどなんで?」 「だって同居してるんでしょ? 一緒に教室入って来なかったから喧嘩でもしたのかな~って思ったの」 「えっ?」  ちょっと待て。  なんで俺と月夜が同居してるの知ってんの……?  もうそこまで噂になってんの?  聞いてみたいけど、なんか聞くのが怖い。  女子のうわさ話って怖くねぇ?  いったいどこに聞き耳立ててるのかっていうくらい、情報量がハンパないんだよ。  まあ、中にはデマもあったりするけどさ。 「あ……いや。えっと、喧嘩……っていうか……」  ……えっと、なんて言えばいいのか……。  名岸への返事に困ってドアを見る。  男子と何やら話している月夜が見えた。  チラリと目の端で月夜を(とら)ながらボソッとつぶやいた。 「喧嘩じゃないない。どう見てもラブラブ。見てるこっちが恥ずかしい」  横から入ってきたのは、花音にうりふたつの性格をしている山本 沙耶(やまもと さや)だ。  ……っていうか、見てたのか!? 「見てたの……?」 「はあ? 見てた? 『見せられた』の間違いでしょ。通学路であんなイチャイチャ……でも、まさか葉桜くんがあんなに積極的だとは思わなかったな」  あ、やっぱ月夜ってそう思われがちなんだ。  俺と同意見を持つ山本に、うんうん、と何度もうなずいた。 「でもさ……やっぱり、一緒にいた方がいいよ?」  名岸が言葉をにごした。 「どうして?」 「どうしてって……」  俺の問いに、山本は呆れ顔だ。  ……なんだよ。  何が言いたいんだよ?  さっぱりわかんねぇし。  眉間にしわを寄せて名岸と山本を交互に見つめる俺。 「葉桜くん……あの……いいですか?」

ともだちにシェアしよう!