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⑤良くも悪くもドキドキ。
「おはよ」
月夜を避けて一目散に教室へと逃げ込む。
素早く椅子を引いて自分の席へと座り込めば……。
「おはよ~、あれ? 葉桜 くんと喧嘩でもしたの?」
俺の隣の席の女子、えっと名前は名岸 だっけ?
彼女は、ひとりで教室に入ってきた俺に尋ねてきた。
「喧嘩? してないけどなんで?」
「だって同居してるんでしょ? 一緒に教室入って来なかったから喧嘩でもしたのかな~って思ったの」
「えっ?」
ちょっと待て。
なんで俺と月夜が同居してるの知ってんの……?
もうそこまで噂になってんの?
聞いてみたいけど、なんか聞くのが怖い。
女子のうわさ話って怖くねぇ?
いったいどこに聞き耳立ててるのかっていうくらい、情報量がハンパないんだよ。
まあ、中にはデマもあったりするけどさ。
「あ……いや。えっと、喧嘩……っていうか……」
……えっと、なんて言えばいいのか……。
名岸への返事に困ってドアを見る。
男子と何やら話している月夜が見えた。
チラリと目の端で月夜を捉 ながらボソッとつぶやいた。
「喧嘩じゃないない。どう見てもラブラブ。見てるこっちが恥ずかしい」
横から入ってきたのは、花音にうりふたつの性格をしている山本 沙耶 だ。
……っていうか、見てたのか!?
「見てたの……?」
「はあ? 見てた? 『見せられた』の間違いでしょ。通学路であんなイチャイチャ……でも、まさか葉桜くんがあんなに積極的だとは思わなかったな」
あ、やっぱ月夜ってそう思われがちなんだ。
俺と同意見を持つ山本に、うんうん、と何度もうなずいた。
「でもさ……やっぱり、一緒にいた方がいいよ?」
名岸が言葉をにごした。
「どうして?」
「どうしてって……」
俺の問いに、山本は呆れ顔だ。
……なんだよ。
何が言いたいんだよ?
さっぱりわかんねぇし。
眉間にしわを寄せて名岸と山本を交互に見つめる俺。
「葉桜くん……あの……いいですか?」
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