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④ズキズキを胸に秘めて。
オレンジ色の夕日が空を染めている。
視界が広がった景色――。
手すりのところ。
いた。
月夜だ。
そして月夜を呼び出した小柄な女子も――。
「葉桜くん、好きです」
鈴の音のように小さくて澄んだ声だ。
屋上に着くなり、月夜に告白する女子の声がすぐに聞こえた。
扉をほんの少しだけ開ける。
俺は隙間から見える月夜と女子を覗き見る。
「葉桜くんには許婚さん……篠崎 さんがいるってことは知ってるの……でも……どうしても言いたくて……」
今はまだ大丈夫。
月夜は彼女を振る。
この告白は断ってくれる。
だけど――。
いつか……。
俺とは違う誰かがこうやって告白した時、月夜は受け入れる。
だって、俺は女じゃない。
月夜とはどうやったって、一緒にはなれないんだ。
「うん、とても嬉しいよ。ありがとう。でも、ごめん。俺には好きな人がいるから……君の気持ちには応えられないんだ。ごめんね」
「好きな人って……やっぱり、許嫁の篠崎さん?」
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