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⑤ズキズキを胸に秘めて。
「うん」
「そっか…………」
月夜は断ってくれた。
『花音が好き』と言ってくれた。
俺だけど……俺じゃない名前。
偽りの名前。
俺が亜瑠兎だと知れば、月夜はどうするんだろう。
きっと……温厚な月夜でも騙されたって怒るんだろうな。
花音を出せって言うかもしれない。
「うん、そっか。聞いてくれてありがとう」
女子はそう言うと、こっちに向かって走ってくる。
俺は慌てて扉の後ろに隠れると、女子が通り過ぎるのを待った。
すれ違い様、彼女の目尻に光っているものを見た。
だけど――。
だけどさ。
俺は彼女よりもひどい状況で振られるんだろうな。
そう実感すると苦しくて苦しくて、胸がムカムカしてくる。
そうしたら、さ。
俺、何かおかしくなるんだ。
月夜に対して怒りが芽生えてきた。
違う。
月夜じゃなくて……。
この感情はきっと、どこに向ければいいかわからない、憤 りみたいなものだ。
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