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⑪ズキズキを胸に秘めて。

 それなのに、涙が止まらない。  止まれ。  止まって――。 「ほんと、涙、なんで出るんだろうな……」  ははって笑いながら頬を叩く。  パチパチ、パチパチ。  頬を叩く乾いた音が、夕焼けが広がった空間に鳴り響く。 「……なんでだろう」  止まれ!  叩いても叩いても……全然止まらない。  頼む止まってくれよ。  頼むから……。  月夜におかしな奴だと思われる。  今はまだ嫌われたくないんだ。  だから……止まって……。 「花音……」  一向に涙が止まる気配がない中、月夜は頬を叩いている俺の手を掴んだ。 「――月夜?」  ぽろり。  また、新たな涙が頬を伝って零れ落ちる。  涙で歪んだ視界のまま月夜を見つめれば……。  ふんわりと月夜に抱きしめられた。

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