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⑥ライバルは突然牙をむく。
怒りの矛先は――他でもない俺だ。
だって月夜は俺を見ている。
マズイ。
このままじゃ、俺の正体がバレてしまう。
なんとか誤魔化さないと。
でも、どうやって?
何を言うの?
足が竦む。
胸が苦しい。
うまく呼吸ができない。
これじゃあ、藤堂 御影が言っていることを肯定しているようなものだ。
だけど好きな人に冷たい視線を向けられて平気なフリなんてできっこない。
「……っつ」
俺は唇を噛みしめる。
ただ目の前にいる藤堂を見ることしかできない。
「ねぇ、自分から言えないのなら、あたしが代わりに言ってあげるわ」
黙ったままの俺に向かって彼女はそう言うと、スカートのポケットから取り出したのはペン型のボイスレコーダーだった。
それを見た瞬間、背筋が凍りつく――。
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