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⑭ライバルは突然牙をむく。
「ごめん、なさい」
初恋の人を偽って、月夜を傷つけてしまった。
こんなにも苦しいなんて考えもしなかった。
俺、馬鹿だ。
心の底では、もしかしたら月夜も俺の事を好きになってくれていると、期待していた。
好きだと言ってくれたのは花音に対するものだったのに――。
俺に言ってくれたものだと勘違いしてしまっていたんだ。
馬鹿だな。
そんなこと、有り得ないのに。
だって俺は男で女じゃない。
月夜が好きなのは花音なんだ……。
苦しくて、悲しくて。
涙で視界が滲む。
あまりにも苦しくて悲しくて、だから動くこともできない。
「……ごめ、なさい……」
みっともなく嗚咽を漏らして項垂れる俺――。
そんな俺の体が、突然ふんわり浮いた。
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