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⑦悲しい想いを秘めて。

 大切な月夜を自分のワガママで縛ってちゃいけない。  悲しい現実を噛みしめていると、バスルームの方からドアが閉まる乾いた音が聞こえた。  月夜が風呂から上がってしまった。  俺は滲んでいる視界に気がつき、乱暴に目から溢れる涙を拭った。  スリッパの足音が近づいてくる。  俺は慌ててリモコンに手を伸ばし、いかにもメロドラマな雰囲気のチャンネルに変えた。  そうしたのは、泣いている理由を少しでも誤魔化そうと思ったから。  俺なりの苦肉の策だ。  月夜には、嘉門さんから電話があったことを知られたくない。  別れる最後の最後まではできるだけ側にいて、できるだけ月夜を感じていたいから……。  今夜は良い思い出にしたい。  だってこれは、俺の初めての恋だから――。  涙は拭ったけれど……ダメ。  やっぱり新たな涙が目から溢れてくる。  テレビのチャンネルももっともらしいものに変えたし、それらしい言い訳にはなる。

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