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⑨悲しい想いを秘めて。

 しばらくの間、月夜に見惚れていると、彼の顔が徐々に曇っていくのが(うかが)えた。 「いったいどうしたの? なんで泣いているの?」  ……ああ、やっぱり月夜に泣いていたのを知られた。  だけど涙の理由は言えない。  そのためにテレビのチャンネルを変えたんだ。 「あ、これ? ちょうど別れていたふたりがくっつくシーンでさ……」  俺の作戦、どうやら上手くいったようだ。  肘で涙を拭った俺とテレビを交互に見た月夜は(うなず)いてくれた。  ……よかった。  勘繰(かんぐ)られずに済みそう。  内心、ほっと息をつく。 「亜瑠兎がまさかそんなにロマンチストだとは思わなかったな」 「意外で悪かったな!!」  グスッと鼻をすすって恨みがましく月夜を睨む。 「ああ、そういう意味じゃないんだよ。ごめん、怒らないで。君は本当に可愛いね」  月夜は少し困った様子で微笑んだ。

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